第45話 新たなる殺人
一心が帳簿を犯人に渡したその日には犯人からの連絡は入らなかった。
翌朝八時、丘頭警部から電話が入った。
「はい、警部どうした。連絡来たのか?」未だ寝ぼけ声で一心が言うと、
「鳥池常務が殺された。隅田川の河口近くで釣り人が発見した。今朝の六時の話よ」
「何っ、どういうことだ? 誘拐事件に何か関りあるってことか?」
丘頭警部の一声で一心は覚醒した。
「いや、まだ何にも分からないわ。捜査課も混乱している。何故、常務が殺されなければならなかったのか? 一応、誘拐事件とは別に単独で捜査本部が設置されたわ」
「殺されたのは夕べか?」
「いや、水に浸かってたのではっきりしないんだけど、鑑識の話だと数日は経ってるって」
「そうか、親娘が帰って来たら、後は犯人を捕まえるだけと思っていたがどうやら違うみたいだな……」
「一心は関係あると思ってるのかしら?」
「そうだろう、同じ会社の人間が殺害されるなんてそうそうあることじゃない」
「確かにそうも言えるわね。まあ、それぞれの考えで捜査進めましょう。じゃ」
「それじゃ後で状況訊きに行くな」
「え~、資料用意しといてあげるわ」
一心は浅草署に丘頭警部を尋ね常務殺害の情報を持ち帰って、家族全員を集め鳥池常務が殺害されたと告げて、その捜査資料のデータを美紗に渡す。
「美紗、先ずこのデータを皆が見えるようにしてくれ」
五分ほどで戻った美紗は「一心、見えるようにしたわよ」
その声を待ってテーブルに置いたノートパソコンを開いて画面に表示する。夫々自分のノートパソコンやタブレットを開いたりする。
「今の警察の持っている情報は見ての通りだが、これまでの聞き取りの中で、常務に関するものもあったと思うんだけど何かないか?」
――参ったなぁ、頭の中真っ白で何にも思い浮かばんなぁ……
「常務はんは社長はんと専務はんの間に挟まって苦労してはりますと聞きやしたけどな」
「あのよー、常務が帳簿に関わってたちゅうこっちゃないか。 裏帳簿を手にして社長を脅したら殺された……ってな考えはどうだ?」と、美紗。
「俺もそれありだと思うぞ」
数馬が賛成する。
「俺もだな」
と、一助。
「確かにそれも可能性の一つだな。他は無いか?」
「身辺を洗った方がよろしいんやないかと思うけどな? 今まで調査対象にしてなかったさかい、どうやろ?」
「そうだな、その中で美紗の言ったことも浮かんでくるかもしれんしな……よし、そうしよう。
美紗は口座の動き、社内文書とメールのチェック、数馬と一助は社内、友人などの聞き取り、俺は静と身内を調べるわ。良いな」
「おーっ」
気勢を上げて調査を始める。
――しかしなぁ……よく考えたら、誰からも調査依頼受けてないから無報酬か? ? ? ……
翌日午前十時、丘頭警部から電話が入った。
「犯人から、帳簿はオッケーしたらしいわよ」
「おーそしたら親娘は解放されたのか?」
「いや、それが、犯人の状況が変わって現金三千万円用意しろと、對田社長のところへ電話が入ったのよ」
「え~、なんだそれ?」
「私も分かんないわよ……人質と交換だって、で、あんたと静の二人で来いって、こないだの工場跡」
「現金の用意は? それと何時?」
「受け渡しは明日の午後四時。お金は社長が今日中に用意してくれることになったから夕方会社へ取りに行ってくれるかしら、私が迎えに行くわ」
「おー、一応大金だからな。でも、状況が変わったって常務の死のことかな?」
「常務から貰うはずの三千万円が貰えなくなったので要求してきた、と考えられるわね」
「ふ~ん、何か変な事件だな……」
「そうねぇ、犯人が殺すはずないから社長か専務が殺したって事かしらね」
「まあ、可能性はあるな」
「あら、あまり乗り気じゃないわね。他に目を付けてる人いるの?」
「いや、そう言う訳じゃないんだが、どうもすっきりしないんだ」
「そ、頼りにしてるからしっかり考えてね、うふ」
――え~っ、何? うふって……可愛くないってかキモイ……
「そ、そいじゃ、夕方待ってるな」
「あら、可愛く言ったのに存外な反応ねぇ……ま、良いわ、じゃ後で」
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