第29話 狙われ続ける女

 彩香の部屋の隣室に空き巣が入った事件があって気が削がれ、片川宅周辺の警戒や美富の護衛に多少の気のゆるみが出た。

 ――それは後から感じたことだった。……


 空き巣事件の三日後、片川宅が再び荒らされてしまったのだ。

昼過ぎ、母親の美富が仕事ででかけて誰もいないはずなのに盗聴器から物音がする、事務所で監視を続けていた一助が気が付いて急行するが、ドアが開いていて……

「一心、荒らされた。丘頭警部に電話入れてくれ!」

一助が物音に気付いてから片川宅に着くまで十分弱その間に前と同じ、否、それ以上に収納できるものは徹底的にひっくり返され中身が部屋中に散乱している。

冷蔵庫の中身も全部床に散らかっていた。製氷器の氷までもだ。

使っていないような埃の被ったバッグとかポーチ、それに子供の引き出しまでが床に投げ出され、貯金箱は壊されて中身が床に……。

押入れの天板が剥がされ天井裏まで何かを探したような痕跡が残されていた。

キッチンにある床下収納まで蓋が外されている。

写真立ての写真も、壁掛けのカレンダーやポスターなども全部剥がされている。

 

 駆けつけた一心も丘頭警部も首を捻る。

誘拐犯はまだ人質との交換を要求していないのに、何故、家捜しをするのか?

急遽美富を呼び戻した。

驚きのあまり泣き崩れる美富に掛ける言葉も見つからず、丘頭警部はその肩を抱いて

「鑑識の証拠物などの採取が終わってから無くなっているものを探してね」

そう言いパトカーへ連れて行った。

 

鑑識の調べが終わって部屋の片付けが済むと、

「やっぱり、何も盗まれていません……どうしてこんなこと何回も……」

美富は涙を溢れさせる。

「すみません。警戒はしていたんですが……」

丘頭警部が美富に頭を下げる。

「俺らも監視していたんだけど、やられてしまって……」一助も頭を下げた。

飛んできた一心も頭を下げた、悔しさが一杯の顔だ。

「警部、ドアの鍵は?」

「鑑識が見たらやっぱりピッキングされてる」

「でも、前のことあって鍵変えたんだよな」

「一助、やり方はあるんだ。絶対なんて鍵はないんだ」

追っかけやってきた鍵師でもある数馬が言った。

「しかし、誘拐犯の要求は帳簿と写真。帳簿が現物だとすればこんなに細かい所まで探す必要はないし、写真だとすれば、要求してるんだから人質と交換で良いんじゃないのかなぁ」

一助は犯人が何を考えているのか理解できず苛立って髪の毛を掻きむしった。

 

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