第27話 女の武器
「それからよ、もっと稼いでやろうと思って夜の町でお金で抱かれる仕事する気のある女を探してリストを作ったのは。
一月掛かったけど二十人集まったわ。
それで五万くれた男にスポンサーになって貰ってバーを始めたの。店には仕事が休みの女に居て貰って、私が客に話をつけて、三万から五万払っても良いという男に女を選ばせてホテルへ行かせたわ。
貰った金の半分は自分が取り残りを女に渡した。
そこの女の中には金の亡者もいて、一晩に三人とか客をとった娘もいたわねぇ。流石に私も驚いたわ。
ただ、週末はさ、どうしても夫々自分の店が忙しいから休みを取れないので開店休業なのよ」
「そうだろうね。水商売は週末が稼ぎ時だからね」
「そう、仕方が無いんだけどさ、一番稼げる日だから誰かいないかと考えて、目を付けたのがOLとか女子大生だった。そう思って歩き回ったけどヒット率は低かったわねぇ」
「そりゃそうだよ、OLとか女子大生は難しいよ」
「その通りだった。昼休みとかに公園でお弁当食べてる女に夜のバイトしないか? と声を掛けたけどダメね。一人も引っかからなかった」
「だろう。無理だって」
「うん、そうなのよ。それでさ週末に女だけで飲み歩いているグループに声をかけたのよ『週末の夜だけ高額のバイトしないか?』とね。興味を示す女は多かったんだけど、男に抱かれる仕事だと言うと、殆どは逃げるのよ。
「そうだろう。わかる」一心は相槌を打つ。
「でもね、三カ月の間歩いて七人捕まえたわ。勿論、一般企業のOLとか女子大生よ」自慢気な百花に「たいしたもんだ」と頷く一心。
「それで週末はその七人を出勤させたの。勿論、生理だとかで出れない日は必ずあるんだけどさ、毎週、完売だった。価格は五万から十万に設定したけど、それでもバカな男が群がったわ、ふふふ」
してやったり顔の百花夫人。
「男って、女子大生とか看護婦とかが好きなのかなぁ? 探偵さんはどうよ?」
「えっ俺っ? 俺は……まぁ嫌いじゃないなぁ。制服姿に……」
一心は危うく情報収集で来ていることを忘れそうなくらい百花夫人の話にのめり込んでしまっていた。慌てて言いかけた言葉を途中で切った。
「ただねぇ、中年以降の客が多くて、女たちに多少不満が有るようだったんだけどさ、年配者の方が女の扱い慣れてるから良いと私は思うんだけどさ……若い女はイケメンが好きみたいね」
「そうだなぁ、若い男は自分の快楽求めてまっしぐらだからなぁ」
「そう、若い男だと回転率が良いのよ、中高年はしつこいと言うか長いのよねぇ。されてる側からしたらさっさとしてって感じなんだけど、ふふふ」
百花夫人はなんとも隠微な顔を一心に向けるのだが、返す言葉が見当たらず中途半端なにやけた笑顔を作ることしかできなかった。
「そんな客の中に村岩吉郎という会社の役員だという男がいたのよ。その男は何故か来るたびに私を指名するのよ。仕方ないから後を頼んでホテルへ行ったわ、当然十万でね。けどさ、その男が私にプロポーズしてきてびっくりよ。最初は何言ってんだこいつって思ったわ。ふふっ」
百花夫人は誰にも喋ったことがないのだろう、話すことが嬉しいみたいで止まらない。
「その時に村岩は経営する会社の売上を伸ばすため女たちを使いたいと言ってきたのよ。
私のバーには五十人ほどの女が登録されていて、店も始めた頃より少し大きな所を借りていたんだけど。
でね、村岩は接待する客を私の店ではなく高級キャバレーみたいな所へ連れてゆくので女をそこへ来させて欲しいと言うのよ。出張料金を別途出すからって言ってさ。
色々考えてさ、私は村岩を受け入れたのよ。
そしたらさ女たちをランキング付けしてそれを女たちに知らしめて競争心を煽るっていう方法を提案してくれたのさ。
ランキングの基準は月ごとにホテルへ行った回数と男達の評価の二つ、容姿は外してさ。
そしてランキングによって値段を変えたのよ。これが大成功、女たちは話術を磨き男を喜ばせるテクニックも磨くようになってさぁ、ふふふ、中にはソープへ体験しに行ってそこで技術を教えて貰ったと自慢する娘もいたりしてさぁ、お陰で常連客が目に見えて増えて売り上げはぐーんと伸びたのよ。
そして村岩は自社の接待客に女をあてがい、村岩の会社を良く言わせ仕事を発注するように促すのと、女たちが男から情報を引出すように仕向けていったのよ。
分かる? つまりね、営業職の社員を教育するかのように女たちに知恵を付け身体を使って営業させるということなのよ。私と村岩はそう言う仕事をする関係の夫婦なのさ」
一心はそこまでやっているとは想像もしていなかった。「売春」という点をのぞけば立派な仕事だと思った。
「だから、吉郎と百花は夫婦と言うより戦友なのよ」
百花夫人はそう言い切った。
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