第23話 人事課の女(その1)

 對田社長は人事課の東海林愛理(しょうじ・あいり)を社長室に呼んだ。

応接ソファに座らせて対座する。

「社内極秘の任務なんだが受けて貰えんかね」對田はわざと苦渋の顔をして話しかけた。

「はぁ、どういうお仕事でしょうか?」

對田は答える前に愛理と並んで座り直し愛理の耳元で、

「専務の不正行為を探って欲しいんだ」と、声を潜めた。

愛理は耳にかかる對田の息がくすぐったいのか首を竦めながら話に驚いて

「そんな専務が不正行為なんて……」と、返す。

「専務のパソコンや机、キャビネットなどに例えば、高額の領収書とか契約書類とか手紙とか……そんなものが無いか探して、あったら写真に撮って欲しいんだ」

「え~、そんな私出来ないですよ」

愛理は座り直して對田との距離を取る。

「あと、来客があった時にどこの誰なのか、そしてどんな話をしたのかを録音しても良いしメモしてくれても良いんだ」

對田は録音装置と盗聴マイクをテーブルにおいて「これを使ってくれ」

愛理はなかなかうんとは言わずに首を傾げ膝の上に手を乗せ固まっている。

「まあ、そう固く考えるな。スパイじゃないんだから気楽にやってくれればいいんだ」

對田は愛理の手を握って自分の方へ身体を向けさせる。

そして身を固くした愛理の顎を優しく持ち上げて目を見詰める。

「君の長野の実家の蕎麦屋さん経営が厳しいそうじゃないか、人事課の中でそんな噂話を聞いたんだが?」

「はい、店舗も古くて……父は建て替えたら昔みたいにお客さんが来るんじゃないかって言ってるんですけど」

「そう、君次第でその資金の一部を出してあげても良いと思ってるんだよ」

「いえ、そんなこと頼めません」

愛理はそう言って對田の手を逃れようとする。

「この仕事を受けてくれたら、別途手当を支給してもいいんだ」

そう言って對田は愛理の身体を背もたれに押し付けて唇を重ねる。

「何する……」

愛理が言いかけるが唇で言葉を遮って

「悪いようにはしないから……考えてみてくれ……」

愛理の両腕を對田の身体と片手で固定して、一方の手で胸からスカートの中へと手を滑らせて……

 

 その夜、高級ホテルのレストランに愛理を招いて豪華なコース料理を堪能しながら具体的な仕事の内容を伝え、予約してあったダブルルームへと移動した。

愛理は両親の事を考え覚悟を決めたのだろう素直に對田の言いなりについてきた。

 

 三年ほど前のことだった。そのお陰で専務の不正行為の内容を概ね把握することができたのだった。

愛理との関係は今でも続いている。

実家も改築を終えて客も依然とまではいかないが良い所まで戻ってきて喜んでいると、愛理が教えてくれた。

 

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