第22話 不倫調査
数馬は今更とは思いながらも山野井忠明と栃坂秋穂がホテルへ入るところと出てくるところを写真に撮った。
ほぼ一月間の行動を時系列的に並べて、それぞれの行動の証拠写真を一枚以上添付して報告書を纏めて行った。
それに同じ経理課の社員の証言も加える。
ただ、その聞き取りの中で直接山野井には関係ないのだが、亡くなった高知課長が不倫相手と手紙のやり取りをしていたと耳にした。
山野井も不倫を始めた頃短い期間だけ秋穂と同じことをやっていたようだとの証言があったのだった。
その事を一心に報告したが、高知課長の会社の荷物や美富の証言でもそんな話は出無かったらしい。
そして調査の結果報告の為数馬は一心と共に山野井宅に夫のいない平日の日中に夫人を訪ねた。
内容はすでに明らかになっているとはいえあきら夫人は少し緊張気味に二人を迎え入れてくれた。
「早速ですが、不倫調査の報告をさせていただきます」
数馬あきら夫人の前に書面を置いた。
一心はあくまで探偵事務所の責任者として同席をしている。
数馬は一ページ目から順に文書と写真をみせながら説明を始めた。
およそ一時間の説明を終えると、あきら夫人はふ~っとため息を漏らす。
「この内容にご満足いただけましたか?」
数馬があきら夫人の様子を窺いながら尋ねると
「えぇ、ありがとうございました。これで踏ん切りがつきました」
重荷がとれて表情に明るさが戻ったように数馬は感じた。
「この先、弁護士にご相談なさるなら知合いの弁護士をご紹介しますが」
一心があきら夫人の反応をみるように問いかける。
あきら夫人は顎に手を当てて
「そうねぇ、どうしようかしら……探偵さんはどうしたらいいと思います?」
夫人が数馬と一心に目線を走らせてくる。
訊いているというよりは、「お宅らには関係ないこと、しゃしゃり出ないで」
と口には出さないが目で言っているように数馬は感じた。
「まぁ、これからゆっくりお考え下さい。またお電話いただければ我々はいつでもご相談にのります」
一心も同じように受け取ったのだろう、締めの言葉を口にした。
「えぇ、その時は是非お願いしますね」
一心が頭を下げて立ち上がってから急に
「奥さんは高知悟課長と直接電話とか手紙でのやり取りをしたことはありませんか?」
と、訊いた。
数馬はなんの事を話したいのか理解できなかったしあきら夫人もそのようだ。
「どういうことでしょう?」
「いや、言ったままの事ですよ」
「電話は、そうねぇ……家内がそっちに行ってないかとか聞かれたことはあったと思いますが、手紙の宛先に私の名前が書いてあるとか、私が高知課長の名前を宛先に書いたということは一度もありません。……これで、答えになってまして?」
「はい、いやぁ、急に済みません。ふと頭に浮かんだもんですから……では、失礼」
家を出たところで
「一心、何を訊きたかったんだ?」数馬は一心に訊いた。
「ふふふ、帳簿の行先さ。課長がどこかに隠したとしたら、知合いに『保管しておいてくれ』とか手紙を付けて送ったら、大抵の人は預かってるんじゃないかなと思ったまでさ」
「でも、課長と係長は家族ぐるみの付き合いあったんだろうか?」
「確かにな、片川美富と愛人関係にあったかもしれないが、だからと言って愛人が一人だって誰が決めたんだ? 俺ら一人の愛人を見つけたことで安心しきってるんじゃないか?」
「高知課長が山野井あきらとも不倫関係にあったと?」
「いや、断定は出来んが、可能性が無いと俺らは勝手に決めて確かめていないってことだ」
「なる、高知課長の身辺もう一度洗った方が良さそうだな」
数馬はやっと一心の考えを理解し、その思慮深さに感心させられる。
「でな、俺は社長と専務の奥さんにも話を訊いて来るわ。外では言わないことを家出喋ってるかもしれないし」
一心のその言葉で、数馬は確かにその二人に話を訊いていないことに気付いたのだった。
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