第9話 令嬢と令息
對田弥生(ついだ・やよい)は對田竜二の長女として生まれ、村岩正二郎(むらいわ・しょうじろう)はほぼ同時期に村岩吉郎の長男として生まれました。
弥生の家と村岩家とは家族ぐるみの付き合いをしていたので、自然と正二郎と遊ぶ機会も多く幼馴染として仲が良かったの。
自宅も近かったので学校も一緒に通っていたわ。
弥生が中学に入る頃になると正二郎を意識し始め、正二郎も同じようだった。話をするのが恥ずかしくなって殆ど無言で学校へ通っていたのよ、一緒にね。なんでかって言えば……ん~習慣かな。
思春期の懐かしいけどちょっと恥ずかしい思い出だわ。
中学二年生の時だったかな? 家族で村岩家に遊びに行ったら、正二郎に見せたいものあるって部屋に呼ばれて行くと、正二郎が真面目な顔をして弥生を正面に座らせ、
「好きなんだ。付き合って欲しい」
告白してきたのよ。弥生は恥ずかしくて正二郎の顔をまともに見ることが出来ずに、だけど好きだったから頷いたの。
そして初めてのキスをした。
それからはしょっちゅう電話したりSNSで話したり子供のころとは違った楽しさ、嬉しさがあったわねぇ。
弥生の部屋だったり正二郎の部屋だったりでキスは何回もしたけど、高校卒業までそれ以上のことは無かったわ。
あら、私ったら余計な事を……恥ずかしいわぁ、忘れて。
進学についても随分正二郎と話し合ったわ。
「将来は父親の会社に就職することになるだろうから、経理や経済の知識を身に着けた方が良いんじゃないか」と正二郎は言うの。
でも、弥生は将来家庭に入ることも考えて「家政科を目指したい」と言ってたのよ。
その頃には父親同士の仲が芳しくなくなって互いの家に家族で遊びに行くことも無くなったもんだから、正二郎とはカフェとかファミレスで会うようになっていたんです。
そんな時にも正二郎は「家政科は建設会社じゃ募集していないから自分と同じ学科へ行こう」と頻りに誘ってくるんで困っちゃた。
都立財務経済大学の願書提出の期限間近まで迷って、迷って、最後は正二郎とできるだけ一緒にいたいという理由で正二郎と同じ学科を願書に書いたんです。それまで悩んだのは何だったんだろうって感じで、ひとりほくそ笑んだりしちゃいました。
大学時代は二人ともアルバイトをしてお金を貯めては遊園地へ行ったり、それなりに豪華な食事をしたりデートを重ねていました。あんまりお金は無かったけど楽しかった。
二年生になる前の春休み、親には友達と旅行へ行くと言って二人で九州へ行ったんです。
この頃には父親同士の仲は一層悪くなっていて、親同士が話をすることはまったくと言って良いほど無くなっていたので、ばれる心配はないと思って弥生も決断したんです。正二郎はばれても良いみたいに考えてた見たいでしたね。
福岡、長崎、熊本、鹿児島の観光名所と温泉を巡ぐる旅は天気にも恵まれ最高に楽しかった。
最初に泊まった福岡のホテルは生涯忘れられない思い出のホテルになったわ。
卒業と同時に二人は對田建設に就職が決まって、弥生は人事課に、正二郎は経理課に配属されたんです。
それから五年が過ぎてました……。
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