第13話 純色と混色
夜の帳はすっかり下ろされ、
「……くっ」
木の根に足を取られ、イーリスは蹴躓いた。焦燥した心が足許を愚かにしていたらしい。イーリスは悔しげに地を拳で叩くと、すっくと立ち上がり、
(こんな速度じゃ、手遅れかもしれない)
イーリスは下ろしていた髪をひとつに纏め上げ、馬の尾のように垂らす。数回深く呼吸をすると、イーリスは覚悟を決めた。
(必ず、救ってみせる)
いや。きっと――……
「あんたら、いつもこんな派手な
小さな宝石の瞬く星昊に、澄んだ少年の聲が溶ける。白と黒の柱で彩飾の施された神殿のすぐそばの、
「おい。
「はん、知るか。あんたらの信仰は俺には関係のない」
「貴様……!この地に生じられたのもあのお方のお陰なのだぞ!」
「止しなさい」
ぴしゃり、と女の聲が白装束の聲を
「あんた、誰だよ」
「わたくしは
「ああ、あんたが」
「この白銀さえなければ、
「そりゃ、どうも。……で、俺はなんでこんな処に連れてこられた上、繋がれてるわけ?」
クスィフォスの物言いに、
「あなたには、わたくしの軍勢を幾度も退いたとされる女人が訪れるまで此処にいてもらいます」
「つまり、イーリスを釣るための餌だと」
「……そうなりますね」
クスィフォスは小さく舌打ちした。イーリスの足を引っ張ることだけは避けたかったというのに、この
逃げる隙を伺うも、白装束の者たちが周囲に必ず張っていて、そもそも不審な動きを赦さない。クスィフォスはお手上げとばかりに嘆息し、柱に寄り掛かった。
「こいつ……舐め腐りやがって」
クスィフォスが柱に凭れかかっているのを見て、白服が舌打ちした。
「あんた、なんでイーリスに会いたいわけ?」
「……なぜ「会う」と考えるのですか?」
「いや普通、殺すだけならこんな処まで呼ばないだろう。どうせあんたが会ってみたいだとか連れて来いだとか無茶振りして、こいつらに俺を運ばせたんだろ」
「
堪えきれなかったらしい。白服のひとりが切実そうに聲を張った。貌を真赤にし、静脈を浮き立たせている。それでも
「本来、
「は?俺も何人かは
「あなたは黒を持つ
クスィフォスは実に厭そうに貌を歪めた。見ず知らずの女に容姿を褒められてもちっとも嬉しくないのだ。寧ろ寒気を感じるくらいだ。クスィフォスが辟易とした
「けれど、話に聞く女人は凡庸な髪色。それはあってはならぬことなのです。故に、直接この目で見て事態を知りたいのです」
「知ってどうすんだよ?」
「それは、見て判断することです」
「そうかい。直ぐ殺すと云われないとは嬉しいね」
矢庭に、クスィフォスの背後から凛とした女の聲が響き渡った。
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