第11話 烏の恋狂い
双つ星の隠された真闇の昊の下。
「
先代の
「
柱の影からひとりの
「何事ですか」
「
「お話しなさい」
「……
「どのような髪色の者ですか?」
「鮮やかな黄と瑠璃です」
双つ星の輝きから
中には白や黒を髪に持つ
暫し黙して思案すると、
「その者を此処に。手段は問いません。生かして、此処へ連れてくるのです」
「ああ、くそ。逃がしてしまったじゃないか!」
大河の中へイーリスの姿が消えていったのを見て、
「ざまあみろ、糞野郎。あんたらにイーリスはやらねえよ」
「この、生意気な
白装束がクスィフォスの肚を蹴りつける。その衝撃でクスィフォスは息を詰まらせ、吐瀉物を吐き出した。身體中が傷だらけで、じくじくと痛む。それでも、クスィフォスは短剣を握り直し、膝を付いて身體を起こす。
「どうせ、あいつのことだから直ぐに戻ってくるだろうしな……」
小さく、囁くように独り言つと、クスィフォスは腰から短剣をもう一振り抜き出して、両手に刃を携えて姿勢を整える。脚が震え、立っているのもやっとだ。藻搔いたってどうせ勝てるはずがない。苦しむだけだ。そのことは白服にも明白で、何故そうも立とうとするとか不可解でならない。白服のひとりが怪訝そうに貌を歪める。
「気味の悪い餓鬼だな……。他のは直ぐに諦めたのに」
「はん、諦め悪くてけっこう。悪いけど、夜まで付き合ってもらうぜ」
やおらクスィフォスは飛び出し、白装束の間に飛び込む。痛む腕を振り上げ、震える脚で蹴り上げる。暗闇に散る鉄錆が相手のものなのか、己のものなのか、もはや
クスィフォスはひたすらに猛攻を仕掛けた。白服がクスィフォスの腕を掴めば、その腕に咬み付いた。顎が痛もうとも肉を歯で抉り、嚙み千切る。槍が肚を貫かれれば、その使い手まで突進して、その頸を突き刺して縦に裂く。クスィフォスはゆらりと振り返り、己を囲む
「次……来いよ」
全身が血に塗れて、今にも仆れそうなのに何時までも立ち続け、刃を振るう少年に、白布たちはたじろいだ。イーリスに
「……薄気味悪い。狂ってやがる」
するとその白服のそばに、ひとりの別の白服が寄り、耳打ちした。
「は?生かしてあの女を捕らえろと?」
殺すことすら手を焼いているというのに、生け捕りにせよというのか。白布は貌を歪め、頭を悩ませた。河から上がったところを追い詰めても、先日の二の舞いになるに違いない。
「……人質を使いましょう」
と別の白布が小さく聲を掛けた。正攻法でうまく行くはずがないことを、イーリスに対峙した
「……あの鴉羽の餓鬼を」
白装束はちらりと、血に塗れてもなお刃を下ろさぬ少年を見据えた。少なくとも、あの少年はあの
「あの餓鬼を、何としてでも生け捕りにしろ」
「承知」
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