芳ばしいコーヒーの香りも、トーストの焼ける匂いもしない。
クッキーの家の朝は、よく日が当たる。昨日はソファーで横になってしまったので気付かなかったが、かなり心地いい。
差し込まれた陽の光で目を覚ました。優雅な朝だった。正直、この心地よさに任せてもう一度目を閉じればもっとよく眠れる気さえした。
隣で寝ていたクッキーはもう起きているのだろう。布団は畳まれていた。
昨日のことを思い出す。間違いなくクッキーは思い詰めていた。
しっかり話を訊かなければという気持ちが先立つ。
起き上がると同時に大きな欠伸が出た。とりあえず、布団は隣の畳まれた布団にならって三つ折りにした。ぼさぼさの髪を手櫛で整えながら、リビングへ向かう。
リビングへ行くと、クッキーの姿はなかった。
壁に掛けられた時計は8:45を示している。時計の針の音が響くばかりだ。芳ばしいコーヒーの香りも、トーストの焼ける匂いもしない。
「クッキー?」
呼んでみるが、返事がかえってくるわけではない。リビングにクッキーがいないという不信感は心の澱へと深く沈んでいく。
嫌な予感という警鐘が遠くで鳴っている気がする。変だ。部屋の中をいくらか歩き回る。洗濯の音がせず、トイレにいるわけでもない。風呂にも。
「クッキー!」
強く声を出すが、部屋の中にかき消えるばかりだ。
いつも行動を共にしていた三人組で一番の世話焼き。お姉ちゃんだったクッキーが私のことを放って、どこかへ行く? ありえない。
だが、クッキーはこの家にはいない。
それだけが今の私に突き付けられた事実だった。
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