ヨウはどうしてこの町に。
クッキーは私との再会を多いに喜んでくれた。半年ぶりという長いような短いような時間会うことはなかったわけだが、彼女は変わっていなかった。
「それにしてもこんな町にどうしてやってきたの?」
私たちは浜に座り込んでいた。もう陽が沈む。水平線の向こうの陽は私たちをこれでもかと照らして、後ろに影を伸ばした。
「いや、なんといえばいいんだろう」
どう返事しようか。いきなり親に追い出されたとかいうディープな話は避けた方が無難だろう。じゃあ、あれだ正直に素泊まり無料の美容室で寝ていたら汽車に乗っていて、その汽車でここまで来たとでも言おうか。ちょっと無理がある。あまりにも突飛だ。どうしようか。いくらか思案しそれっぽい口実をでっちあげたいが。……よし、こうしよう。
「自由課題の続きだよ」
彼女は私をのぞき込んできた。
「学校、やめっちゃったのに」
「う……うん」
この言い分は苦しかっただろうか? 学校をやめたのに、学校の課題を自主的にやっているのはどうなんだろうかと口に出してから気付いたが仕方ないだろう。覆水盆に返らずだ。
「『居住地区と汚染について』だっけ」
自分で言って、そういえばそんなテーマで課題に取り組んでいたななんて思い出した。百年前の自然災害によって、多くの土地で人が住めなくなったらしい。らしいという言い方は他人事のようだが、事実、他人事なのだ。私は生まれていないので過去にそういうことがあったという事実だけがあった。原因がどうかとかなぜ起きたのかとかそういうことは調べるまでずっと知らなかった。
「なるほど。確かにぴったりの場所かも」
クッキーは困ったように後ろを振り返った。私も思わずそちらを見た。人気のない町。終わりを迎えるばかりのモールが建っている。そういえば、私のことを訊いてきたクッキーこそなんでこの町にいるのだろうか。
「クッ、あ、蛇倉さんこそ、どうしてここに?」
「クッキーでいいよ。なんで苗字なの。余所余所しいなぁ」
つい渾名で呼びそうになって自制したがクッキーは聞き逃さなかった。ありがとうと口から出かけたが彼女が遮った。
「ここね。私の地元なの」
彼女の横顔を見る。なんだろうか。人の顔色を見るのは得意じゃないが、そう言った彼女の顔は、寂しさと諦めを含んだ顔をしていたような気がする。
「し、知らなかった」
「そりゃそうでしょ。私、下宿生だからね」
そうだ。彼女は学校の近くで下宿をしていた。すっかり学生の生活スタイルから切り替わってしまったがなるほど期末試験も終わって長期休暇の真っただ中なのかと合点がいった。
「私の地元はどう? ヨウの自由課題のサンプルにはなりえるかな」
彼女が問いかけてくる。
「どうだろう」
私は曖昧に答えた。どう答えればいいかわからなった。
当時なにを書いたか、どこまで書いたか。しめくくりをどうしたかったか何もかもが中途半端だったからではない。いや、確かにそれも要因の一つだけど、クラスメイトがこれから亡くなる町の出自であるということに動揺した。
「まぁ、そんなこときかれてもわかんないよね」
彼女がにへらと笑った。明るく振舞っているだけかもしれないけど。
それからしばらく何も話すことなく、二人で陽が沈んでいく海を眺めた。
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