再会

 夕暮れの海岸を歩いていた。というと聞こえはいいが、何せ途方に暮れていた。汽車を降りてから、まず思い至ったのがこれだった。金がないのだ。一泊一飯。それをするにも金はいる。学生を辞めた後もバイトをしないで親からのお小遣い生活を続けていたのが良くなかった。金冠石ゴルディウムの換金はできればしたくない。

が……。財布の中身は、千円札すら入っていない。


 アイストトの駅へと降り立って私はモールをぶらついたわけだが、何の情報も得られなかった。モールに集まっていた人は、誰もがこの町で終わりを迎えようとしている人ばかりだった。訊いた話では、一か月もしないうちにここの駅は閉鎖されるらしい。そこまで汚染が進んでいるのだろう。話を訊いていたら気が滅入るばかりだったので、とにかく腹ごなしだけをした。


 それからは町をぶらついた。小さなアクアリウムがあったが、やっているかどうかは怪しかった。あとはホテルばかりが立ち並んでいた。どこも相場は三○○○円~六〇〇〇円。みかん園の看板と広い土地には何かが植わっていた痕跡はあれど、そこに作物は一つも成っていなかった。大きなモールと、ホテル街からしてこの町はむかし観光地だったのかもしれない。

 自分がここで何をすればいいのかわかっていないが、店主の言葉を半分、いや、三分の一信じて、何かはきっとあるんだろうと勝手に思っていた。だが、ほんとに私の生き方だったり、これからの方針を示してくれる決定的な何かがこの町にはあるのか?


 時間だけが過ぎ、夕暮れの海岸はどこまでも美しい広がりを見せていた。空の藍と陽のグラデがどこまでも続いている様は壮観の一言だった。もしかしたら、ただこれを見に来ただけかもしれない。とさえ思うほど。

 夕暮れの海岸で歩くというのは昨日もしたばかりだ。この場所はうちから行ける海岸より波が静かだ。たまたま今日がそうなだけなのか、普段からこれくらい静かなのかはわからない。けれどきっとこれくらい静かなのだろう。私が砂を踏みしめる音の方がよく響いた。間違いなく良い場所だった。それだけで来た甲斐があったのかもしれない。


 ポケットの中に手を入れる。金冠石ゴルディウムを手に取り、掌でもてあそぶ。

 私に取れる選択肢は、三つある。一つ。モールに戻って、屋根のある場所でひとまず一夜を明かす。二つ。金冠石ゴルディウムを換金して、ホテルに泊まる。三つ。汽車を呼び出して、何もありませんでしたと言って素敵なベッドで夜の列車旅を楽しむ。なんだ、三つ目が一番合理的じゃないか。そう思ったら、朝もらったばかりのカードを取り出していた。手に力を込めて、破こうとする。

 

「ヨウ!」


 背中から声がかかった。不意のできごとだった。名前を呼び捨てで呼ばれるのはいつぶりだろう。

 確かにそれは訊いたことのある声だった。気がする。声のした方へと振り返る。

 小柄で凹凸の少ない身体つきに、ボブカットの茶髪。右頬の上にはあざといこと限りない泣きほくろまで視認したところで声と人がかっちりと照合された。

 元クラスメイトだ。


「久しぶりー」


 手を振りながら元クラスメイトのクッキーがこちらに駆け寄ってくるさまはまるで子犬のようだった。

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