第2話
ぼくは母さんに似たのだろう──と、幼いころのフランチーク・レンロスはしきりにこう思った。
母親と父親はいとこ同士らしかったが、長子のフランチークからするとその二者は似ても似つかないように思えた。
片方は、繊細で、清らかで、儚くて、まぶしいような記憶の中にいる、もう死んでしまった人。
そしてもう片方は、まだ生き残っている人。傲岸で、強欲で、そのくせ愚かな人。一体、伯爵位がなにになるというのだろう? 由緒のある家門ではあるが、この俗物の下では、さして大きくもない領邦は疲弊していく一方だ。
フランチークが物心がつく前から慣れ親しんだ古美術品は、しかし、年を経るごとにつぎつぎと居城から運び出されていった。どこかに消え去ってしまうのだ。そのたびにフランチークは自分の胸の中に虚しさを覚え、苦しい気分になった。
価値があるものは、その美しさと繊細さゆえに、儚いものであり、揮発するように消え去ってしまう──このような観念を、少年期のフランチークは抱いた。
反対に、愚鈍でくだらないものはいつまでも消滅せずに、摩耗しながらもその場に残り続けてしまう。
これは恐ろしいことだぞ、と当時のフランチークは思った。この考え方が正しければ、時間が経つごとに、世界からは価値があるものが消え失せていき、そして最後には価値のないガラクタばかりが世界を埋め尽くしてしまうのだ。果たして、自分が大人になるころまでに、世界に価値があるものは残っているだろうか?
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