「母性」湊かなえ
娘が自宅の中庭で倒れてるのが発見された。『愛
もうここから違和感が。
彼女が夫に出会ったのはとある絵画教室。彼の絵が暗くて嫌いだと内心で思っている場面です。
──私の絵からは、物が発散するみずみずしさ、温かさ、明るさが溢れ出しているのに──
うーん、ナイス自意識過剰。彼女、お嬢さん育ちのようですね。ウッと思いはするけど、私は結構好きですね。お嬢さんお嬢さんしてて。
彼女の様子を見ていると、どうやら母の手によって優しい無菌室に押し込められ、性善説を植え付けられ、母が導く正しい道へと誘導させられ、自分で考える頭を持たされないまますくすく育った印象です。
そんな彼女は心が繋がっていないのに彼と結婚してしまう。それは彼女の母の意思を尊重したといっても過言でなく、自覚もしていない。危ういですね。親は先に死んじゃうんだぞ。
ところで私は現在BL小説書きでして、文章力が欲しいなら読書だ読書、とせっせと読んでいるわけですが。落ち着きがないのでこうやって読んでる途中で書き始めますが(だから読んでから書けってあれほど)。
愛だ恋だがテーマなんです。18禁だけどポルノじゃない。『性愛失くして愛は語れない』とはよく言いますが、これに勝る言葉はないって感じの作品が見つかるジャンル。見つけられなかったらすみません。
でね、読書という私的研究で、恋愛から自然発生する性愛までのメカニズムを知れば知るほど、理性だけでは繋がれないってことを理解しました。
後日感想文を書きますが、バイブルと化した本があります。読んでいる間、涙が出そうで出ない苦しみを私は味わった。
彼女を見ていると、まんまとその状態に陥っていてザワザワする。未接続の夫婦。素敵なのは建物とロケーション。ガワだけです。
じわじわと不安を感じます。正直、金さえあれば家庭は維持できる。しかし、いつ崩壊してもおかしくない。しかも彼女のように『こういうもんだから』で、主婦になっちゃうのもリスキー。時代背景もあるでしょうが。
相変わらず彼女は母にベッタリなまま、娘が誕生。娘の回想シーンでは一見おばあちゃん込みで一家団欒できてた風ですが、とある事故で彼女の母は亡くなります。
一家で夫の実家に身を寄せることになりますが、姑の意地の悪いこと。彼女を農家の戦力としてこき使うのに自分の娘は遊ばせておく。典型的な悪い姑。
夫はその姑から彼女を守らない。俺みたいに距離置けばいいのに、って思ってるんだろコノヤロー。それは子供の目線じゃないか。あんた夫やんけ。さらに父親じゃろがい。
彼女は温室育ち。それは害虫から身を守れない花と化したも同然。いじめは駄目に決まってるよ。当然だよ。でもこういう人を見てるだけでイライラする人、いるんじゃないでしょうか。
私はイライラしながらも、母を喜ばせて褒められたい一心で、かつて良しとされていた方法を義母に試みては、絶望する彼女が可哀想でなりませんでした。
可哀想なのは彼女の娘もです。娘もまた同じように彼女を喜ばせようと、良かれと思って彼女を虐める祖母に立ち向かう。しかし彼女はそれを迷惑だ、なんて思っている。彼女は義母に好かれたい側ですからね。
もうバラバラです。最初っから未接続の男女からは悲劇しか生まれないのだろうか。後からいくらでも挽回することはできたはず。
でも、夫は彼女を義母のような人に違いないと思い込み、彼女となら自分が思い描いていた『理想の家』を作れるはずだと思っていた。彼女は母を教祖として仰ぎ、振る舞った。互いに相手のことなどなにも見なかった。それは『妄想』と言っていいのでは。
今の家には彼女の求める『母』がいない。夫が求める『理想』もない。そんな彼らが発する不安の臭気がふとしたときに臭ってくる。
あることをきっかけに彼女は手芸教室へ通い始めます。でもな、『楽しかった!』じゃねーよ。娘を家政婦にするんじゃねえ。学生の本分はー? せーの、「勉強!! からのアオハル!!」だろうが。しんどくてもお前は親じゃろがい。私だったら娘と一緒に出ていくわい。娘と人生やり直したるわコノヤロー。
『母』も『理想』も見つからぬままの、混沌とした家の中。あることがきっかけで、娘は母方の祖母が亡くなったときの真実と、父の生い立ちと心の内を過去の日記で知り、現実から逃げていま何をやっているのかを知ることになる。
母に好かれたい一心で祖母に立ち向かい、母を楽にするために家事をこなし、青春の熱をほとんど母へと注ぎ込んできたような娘。そんな娘の心がついに折れ、命が奈落の方へ向かって転がり始めます。
娘は利発な子供です。人の気持ちに敏感でありながら、理不尽な目に遭っても黙って俯いて泣くような子供じゃない。
そんな彼女は守られることのない娘だった。いつまでも娘としてしか生きられない母と、自分が抱いた理想という妄想に執着し、現実を生きられない父を持った娘。
絶望に飲み込まれた人々が求める世界へと駈け足で向かっている最中に、娘が考えたこと。それは、自分を守らない、守れない母を社会の制裁から守ることでした。自分がどうなってもあの人だけは。ここで緩みだす私の涙腺。
極限状態に置かれたとき、『母』を生かそうとするのが娘であり、娘を生かそうとするのが『母』である。
『母』を学ぶことのできなかったはずのこの娘こそ、本物の『母』である。そう思いました。
孫を助けた二人の祖母は、孫に対する態度は全く違えど『母』であったのだ、とこの修羅場を境に印象が変わりました。双方やり方がアレだけど。孫娘の危機となれば即行動する、それも『母』の形のひとつだと思います。
目で追うのも大変なほどの速度で真っ暗闇の中へと落ちていった彼女の生命。それが突如として、筋を描いて輝く光の玉に変わり、彗星となって帰ってきたような奇跡を見たような気持ちになった。
それと同時に思いました。あんたさすがだよ、大人になるには、いや『母』になろうというにはそれしかないよね、上等だよ。頑張ったね。偉かったよ。
社会的役割や物理的なモノとしての母は大勢いる。しかし精神的な『母』として生きられる人は、どれほど存在するでしょうね。過半数切ってたらイヤだなあ。
その『母』っていうのは、性別不問だったりする。マッチョな男でも、年齢が低くても、『母』を持つ人はいる。作中の娘のように。まだ未成年の未婚者であるはずなのに、すでに彼女は立派な『母』だった。
私は、存命の母を持つ身でありながらも精神的な『母』を求める気持ちはわかるつもりです。『代理母』を求める気持ちも。もし、
その答えは物語と一緒に書いてある、と私は思います。娘はずっと『母』を求める娘のはずだった。求めて求めてたどり着いた先に何があったのか。是非、一読されてみてください。
追伸:めっちゃ改稿してます。すみませんね落ち着きのない奴で。
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