桜の姫

榎本 慎一

序文

 神によって創られたと言い伝わる、東の海洋に浮かぶ島国『天神国』。

 この国の歴史は百年に一度発生する大災害、『厄災』と共に彩られている。

 厄災とは妖と呼ばれる魑魅魍魎の大量発生、それに付随して起こる数々の自然災害のことを指す。

 発生原因は未だ不明。収束までには平均して五年を要する。

 厄災が発生する度、天神国で暮らす人々は様々な理由で命を落とす。妖の襲撃による負傷死、自然災害による事故死、天候不順による餓死等々、その死亡者数は実に人口の三割に及ぶ。

 厄災の発生源と目される妖に対抗出来るのは、支配階級である士族達が操る『呪術』のみ。そのため一度厄災が発生すれば、彼らは少数精鋭でありながらもより多くの住人を守るため、そして厄災を少しでも早く収束させるため、犠牲を厭わず妖との戦いに身を投じる。士族達は天神国の黎明期からそれを幾度も繰り返し、国の守護者としての役目を果たし続けた。



 建国から一七〇〇年が経過した現在でも、天神国から厄災の脅威は未だ祓われていない。

 十七度目を数える此度の戦いにおいても、きっと多くの弱き者の命が奪われるだろう。


 たとえどんな過酷な状況に置かれても、人間はその愚かしさを決して捨て去ることが出来ないのだから——。

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