異世界百合旅~~転生した私は百合好き女神からチート武器を与えられ、冒険に出ましたっ!~~

@yuuki009

第1話 転生特典が凄いけどヤバい

 私の名前は、『ハルカ』。どこにでもいる普通のJK、だった。


 ある日私は、学校の帰り道。いつも使う駅に向かっていたんだけど。夕暮れの帰り道、駅へ向かう人たちで混雑していた駅前の交差点。信号が変わった、と思って歩き出そうとしたら、信号無視で突っ込んで来た車。


 その暴走した車から、私はたまたま逃げ遅れた、近くの女の子を庇って、車に激突され、命を落とした。


 そして気づいた時にはなぜか真っ白な空間に居た。


 と、ここまでくれば典型的な異世界転生物のラノベにありがちなシーン。私はそういう類のラノベが大好きだったから何冊も読んでる。だから少なくとも、『あ、これ知ってるわぁ』って思うくらいには、この状況を『最初は』飲み込めた。


 けれど……。

「むふふっ!ようやく来たわこの時がっ!私好みの百合気質な女子転生者っ!この子があの武器を持って異世界転生すれば異世界百合ハーレムが見られるっ!むふ、むふふふっ!これで私の見たかったものが見られるわっ!あ~はっはっはっはっ!」


 うん、何だろう。変な人へんたいがいた。


 見た目は、何というかファンタジーゲームに出てくる女神様みたい。それに纏っている雰囲気も普通じゃない。明らかに人の形をした『人外かみさま』だという事が私でも分かるくらいのオーラを纏っている。……そう、纏っているんだけど……。


「うぇひひっ!ひひひっ!」

 な~んだろうなぁっ!す~~っごい残念な笑い方してるのよあの女神様っ!えぇ?あれがマジで女神様なの?これ大丈夫?もし宗教関係の人が見たら卒倒しない?……って言うか、もしかしなくても、あの変態女神様が私の転生の担当者的な存在なの?


「うぇひひひっ!」

 うん、チェンジで。仮にも女神様相手に不敬かもしれないが、それを差し引いてもなんかあの女神様はヤバいッ!関わりたくないなぁ。


 かといって周囲を見回しても私とあの変態女神様以外、他に誰も居ないみたいだし。どうしよう?と迷い周囲を見回していたその時。


「ん?」

「あっ」

 ふと、女神様(?)が私の方を見て、目が合った。思わず声が出てしまう。

「「………」」


 そして、お互いに固まる事数秒。女神様は私に気づいて目を見開き固まっている。一方の私も、今の今までこの人の変態的な姿を見ていたせいで、何も言えず、どうしようか?と考えながら固まっていた。って言うかこの気まずい空気をどうにかしたいなぁ。


 そう、思った時。

「んんっ!ようこそ人の子よ。私は、人の輪廻転生を司る女神で……」

「いや遅いですっ!もう手遅れですっ!」

 なんか咳払いして誤魔化そうとしてるけど流石に無理だからっ!思わずツッコみ入れちゃったよっ!?

「……やり直し、出来ます?」

「まさかのやり直し要求ッ!?いやもう無理ですっ!思いっきり見ちゃいましたからっ!女神様(?)が明らかに女神のしちゃいけない表情と声で笑ってたのっ!」

「ちっ、ダメかぁ」


 舌打ちッ!?舌打ちしたよこの女神様っ!マジで女神様なのこの人ッ!?……人、じゃないかもしれないけど。 ってそんな事どうでも良いっ!

「あ、あなたが女神様だとしてッ!ここはどこですかっ!?それに、私はなんでこんな真っ白な場所にいるんですかっ!?説明を求めますっ!」


 どうして私がこんな場所にいるのか、想像する事は簡単だけど。でもそれが本当なのか分からない。だから知りたい。だから、私は女神様に向かって声を荒らげた。けれど……。


「想像、簡単に出来てるんでしょ?だったら聞く意味は無いんじゃないかな~?」

「ッ!」

 次の瞬間、不敵な笑みを浮かべる女神様の口から語られた言葉に私はゾクリと体を震わせた。その笑みと今の言葉、それはまるで……。


「『心を読まれたみたい』、って所かな?」

「ッ!!」

 笑みを浮かべたまま再び口を開いた女神様。そしてその言葉に私の背筋は更に凍り付いた。心を、読まれてるッ!?


「ふふん♪そりゃ心くらい読めるよ~。神様だもん♪」

 突然の事に驚き、半ば放心する私に対して女神様は得意げに笑みを浮かべている。……あんな変な笑いしてたのに。


「ちょっ!?それは忘れてってばぁっ!」

 おっと、心が読めるんだった。あの変顔の姿を思い浮かべながらポツリとそんな事を考えると、どや顔を決めていた女神様は一転して顔を赤くしながら慌て始めた。


「いやぁ、あれを忘れるのは無理ですねぇ。だって女神様がしていい顔じゃなかったですし」

「ぐぬぬっ!!」

 女神様は悔しさと恥ずかしさが混じったような、良く分からない表情を浮かべていた。……って、そうじゃなくてっ!


「あのっ!改めて聞きますけど、私ってもしかして、死んだ、んですか?」

「……」

 こんな事で話をしている場合じゃなかった。私は頭を被り振って、改めて問いかけた。すると女神様も私の真剣な表情を見て、想いを汲んでくれたのか一転して真面目な表情で私を見つめている。やがて……。


「その通りよ。あなたは死んだわ」

「ッ!!!」


 想像はしていた。もしかして?とも思っていた。それでも、突き付けられた現実は無情で、思わず息を飲んだ。

「……本当に?」

「えぇ。残念ながらね」

 嘘であってほしかった。諦めきれなくて、問いかけた。けれど女神様は静かに肯定するだけ。


 その姿を見ていると、心が痛い。お腹が痛い。自分が死んだという実感が湧いて来た事で、吐きそうだった。

「精神が乱れてるわね。強引で悪いけど、『落ち着きなさい』」

「ッ」


 不思議と女神様の言葉の一部にエコーが掛かっているような気がした。そんな聞こえ方がした、と思った次の瞬間。こみあげていた吐き気。胃を締め上げていた痛み。それらが一瞬にして消えてしまった。どうして?と思った時。


「申し訳ないけど、冷静に私と話をしてもらう為に神の力であなたの肉体、精神に干渉させてもらったわ。色々あって混乱してると思うけど、悪く思わないでね」

「い、いえ。ありがとう、ございます」

 女神様の力で、どうにか落ち着きを取り戻す事が出来た。私は一度深呼吸をしてから、改めて見神様と向き合った。


「女神様、私はどうして、こんな場所にいるのでしょうか?」

「それに関しては、恐らく細かく説明する必要はないでしょうね。単純に言ってしまえば、今の人間界で流行っている書物、ラノベの最近のテンプレ、って言えば今のあなたにも伝わるかしら?」

「……『転生』。いえ、『異世界転生』、ですか?」

「その通り」

 私の言葉を聞くと女神様はニヤリと笑みを浮かべながらパチンと指を鳴らした。


「あなたは確かに死んでしまった。けれどそれは誰かを守るという高潔な行為の結果。私たち、つまり神々はそんな勇敢なあなたに第2の人生を与える、って事よ。どう?最近のラノベのテンプレまんまでしょ?」

「え、えぇまぁ」


 なんで女神様が最近のラノベのテンプレ知ってるんだろう?と思いつつ頷く。

「そりゃ神様だって本の一つや二つ興味持つわよっ!『人間がまた面白い物書いてるぞっ!』ってっ!」

 って、心読まれてるんだった。


 女神様は楽しそうにコロコロと楽しそうに笑みを浮かべている。……ってか神様にまで受けてるラノベってホント凄いのでは? なんて私は考えてしまった。ってこれじゃ話が脱線しちゃうなっ!


「私は、異世界転生するんですよね?それに最近のラノベのテンプレという事は。何か私は、貰えるんですか?チート能力とか、凄い道具とかっ!」

「もちろんっ!あなたにうってつけの、滅茶苦茶凄いチート武器をね♪」

 女神様は笑みを浮かべながらウィンクをした。すると次の瞬間、私の目の前の足元に金色の輝く魔法陣が現れたッ!?

「な、何ッ!?」


 突然の事に驚いて思わず数歩、後ずさりした。その時、魔法陣の中から光球が現れ、私の胸の高さまでひとりでに上って来た。な、何これ?


 私が呆然と光球を見つめていると、次第に光球が形を変えていった。輪郭が歪んで変化し、別の形へとなっていく。そして何やら見覚えのある形に変化すると、次の瞬間光球が始めた。


「ッ!?」

 突然の事で驚いて思わず視線を反らしてしまった。な、何が?恐る恐る私は視線を戻した。


 すると、先ほどまで光球があった場所に浮かんでいたのは……。

「こ、これ、拳銃?」


 私の前に浮かぶそれは、真っ白な拳銃だった。ミリオタだったお父さんからそう言った類の写真やエアガンを見せてもらい、触った事もあるから分かるけど。確かこれって、オートマチックとか言うタイプの拳銃、だったはず。


 でも、真っ白な拳銃なんて見た事無い。それに銃の全体に彫刻が彫られていた。その白さと彫刻のせいか、まるで芸術品を見ているようだった。


 改めてその銃を見ると、かっこいいとか、怖いとか。そういう感情よりも先に、『綺麗』とか、『美しい』って思えた。本来なら危険で物騒な武器のはずなのに、真っ白である事。荘厳な彫刻が彫られている事もあって、この銃を『危険な物』とは思わなかった。


「ふふっ、どうやら気に入ってくれたみたいね。その武器の事」

「あ、え、えと、は、はいっ」

 女神様に声を掛けられた所で私はようやく我に返った。突然の事で思わず返事がしどろもどろになってしまう。

「こ、これ、私が貰って良いんですか?」

「何?不満なの?」

「い、いえっ!不満とかじゃなくてっ!むしろ凄すぎてちょっと気が引けるというかっ!」

「ふふっ、そっか~♪」

 私の反応が面白いのか女神様は、いたずらっ子がいたずらに成功した時のような、面白そうな笑みを浮かべている。


「まぁ気にしなくて良いよ。その武器、『全領域対応型兵装』、『ナインウェポン』はあなたの物だから。

「な、『ナインウェポン』?」

 名前を聞いたけど、ナインって数字の9?じゃあ、九つの武器、って事?でもこれって、拳銃の形してるけど……。


「さてさて、ではまず、あなたの異世界でのお供となるその武器、ナインウェポンについて説明をしていこうか」

 女神様はそう言うと、私の傍へと歩み寄って来る。

「よ、よろしくお願いします」


 こんな武器が私の物になるという戸惑い。けれどこんなすごい武器を貰えるのなら、という期待。それらが混ざり合って、私の心臓は早鐘を打っていた。


「ナインウェポンは、ナイン、9の名の通り九つの形態を持っているの。今あなたの前にあるのは、その1つ。≪拳銃形態ハンドガンモード≫よ」

「九つ。って事は後他に八つもあるんですか?」

「えぇ。とりあえず、まずはそこを簡単に説明していくわね。全領域対応型兵装ナインウェポンに与えられた形態は、この≪拳銃形態ハンドガンモード≫を始め、≪突撃銃形態ライフルモード≫、≪散弾銃形態ショットガンモード≫、≪狙撃銃形態スナイパーライフルモード≫、≪剣形態ソードモード≫、≪弓形態アーチェリーモード≫、≪槍形態ランスモード≫、≪盾形態シールドモード≫、≪杖形態ロッドモード≫の9つがあるの」


「す、凄いですね。それだけあれば何でも出来そうですけど」

「えぇ。実際、何でも出来るわよ」

 あらゆる武器に変化出来るって、凄いなぁ。と思い思わず声に出してしまう。すると女神様は得意げに笑みを浮かべている。


「例えば、狙撃銃形態スナイパーライフルモードなら、極めれば超長距離からヘッドショットを決める事だってできるし。盾形態シールドモードを極めれば、あらゆる攻撃から自分や仲間を守る事だって出来るわよ」

「……凄すぎて、凄いという言葉しか出てこないですね」

「ふふっ、そうでしょそうでしょ~♪でも、この全領域対応型兵装ナインウェポンにはまだ力があるのよ。それが、『スキルシステム』」

「スキル、システム?」


「そう。この武器の各形態にはそれぞれ独立したレベルが存在するの。レベルは言わば、習熟度とか、慣れを数値化したような物ね。あなたが戦闘で、例えばそうね。何度も拳銃形態ハンドガンモードで敵を倒していくと、経験値が蓄積されレベルアップする。すると、その形態でのみ使用可能なスキルポイントが付与されるわ。そのポイントをスキルツリーに入れると、新たなスキルを獲得し、戦闘をもっと有利に運ぶ事が出来るの。あっ、ちなみにだけど拳銃形態を始め、銃に関係する形態は基本的にリロードや弾の補充とか必要ないから。一部射撃の際に予備動作とか必要だけど、簡単な物だからね」

「そ、そうですか」


 何というか、至れり尽くせりって感じだった。こんなすごい武器、私が貰っても良いのかな?ホント、これがあれば何でも出来そうな気がしてきたけど?


 なんて考えていると。

「ちっちっちっ。甘いよ~。いくら転生特典だからって、こんなすごい武器が何のリスクも無しに使える訳ないじゃな~い」

「ッ」

 女神様は私の心を読んで発言したんだろうけど、リスクなしに使える訳ない、そんな言葉に思わず息を飲んだ。


 そうだよね。こんなすごいの、対価も何も無しに使えるなんて、虫がよすぎるよね。でも、そのリスクって一体?


「あなたが転生した直後から、の話になるけどまず最初に開放されている形態は一つだけ。他の8つの形態は当初ロックが掛かった状態になっているわ。このロックさえ解除する事が出来れば、あとはあなたの自由に使える。で、問題はその解除方法なんだけど……」

「……」


 私は無言で、ゴクリと固唾を飲み込みながら女神様の言葉の続きを待った。一体、どんな対価を要求されるのだろうか?まさか人の命とか、魂とか?なんて考えてしまい、身構えていた。



 が、しかし。

「ズバリっ!『女の子とイチャイチャして』、『仲良くなる事』ッ!!もっと言えば『あなたが女の子と百合百合して同性の恋人を作る事』ッ!!!」

「…………はぁ?…………はぁっ!?」


 身構えていた私を置き去りにして、予想の斜め上をかっ飛んでいく解除条件の内容。


 いやまぁ人の命とか魂を捧げろ~、みたいな物じゃなくて良かったと思う反面。私の脳みそは、その内容を理解しきれていなかった。


 テンプレ的な転生をすることになった私だけど、なんかもう転生する前から嫌な予感しかしなかった。


     第1話 END

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