第8話 止めろって言われたから…

 そうして研修当日。ギルドの前に行くと。もう既にサーラさんが待っていました。私より少し年上の、二十代後半から三十代前半って感じですかね。あ、私25歳です。


「おっ、君が研修のロディちゃんだね。アタシはサーラ、Aクラス冒険者だ。巷では太陽のサーラなんて呼ばれてるよ。今日はよろしく!」


 二つ名に恥じない快活さを持った褐色の肌に似合う、姉御肌の女性といったとこですね。


「はい!よろしくお願いします!…えーと、あともう一方いらっしゃいますよね?その方は」


「バーダンな…なんでアイツも一緒に行くことになったんだか。というか今回ダンジョンだろ?絶対アタシより他のやつのがよかっただろうに、なんでアタシなんだ」


 急に快活さを失い、名前を出すのも嫌といった顔でサーラさんがげっそりしています。


「あの、何か問題が」


「そう、だね。実は」


「俺を呼んだか!」


 元気な声が、ギルドの前にこだまします。ちなみに今は朝の6時。寝ている人は寝ている時間です。


「そう俺こそが、このギルド最古参の冒険者!トラブルメーカーのぉ~!バーダンだ!よろしく!」


 勢いよく自分が危ない人だと自己紹介しながら、恐らく40代くらいの男性、バーダンさんが悠々と歩いて近づいてきます。トラブルメーカーを自称する人間は大体やばい気がするんですけど…姿を見るなりサーラさんは更にげっそりしました。


「…こういうやつなんだ。もう一つの懸念事項は、道すがら話すよ。おいバーダン!今何時だと思ってやがる!静かにしろ」


「おいおい年長者は敬うものだぜ?さぁ新人くん!行こうかダンジョン探索へ!」


 至極まともな注意をするサーラさんの言葉を流して、明後日の方向へ駆けだそうとするバーダンさん。なんとなくサーラさんやウォルターさんが嫌な顔する理由はわかりました。


「バーダンさん。そっちは反対方向です」


「おおっと、間違えちまったな。ま、トラブルメーカーってことで一つ見逃してくれや!もしくは俺のトラブル、止めてみるかい?ハハハ!」


 ……うん、私もちょっとこの人苦手かもしれません。



 でも言質は取れました。トラブル、止めていいんですね?



「バーダン!そっちはモンスターの巣だ!」


「≪影縫い≫」


「ぐあっ!体が!!」


 止めてみろと言われましたし、止めてみせましょう。全て。モンスターに使おうとしていた影縫いをここで使うとは…


「バーダン!そっちは崖だ!」


「≪パラライズ≫」


「べべべべべべ」


 影縫いだけだと針が尽きてしまいますからね。矢じりに麻痺毒を塗ってかすめさせる≪パラライズ≫も使用していきます。大丈夫、死にはしません。矢も回収していきます。


「ありがとうロディちゃん。アンタのおかげで今回凄い楽だ!」


 快活さを取り戻したサーラさんに凄い感謝される一方


「おれ、おまえ、きらい」


 バーダンさんには凄い嫌われてしまったみたいです。止めろっていったり止めたら止めたで嫌ったり…あと私が止めなかったらバーダンさん何回か死んでましたからね?


「さて、ここが今回の依頼内容の舞台だ」


 改めて今回の依頼内容に目を通します。ダンジョン内の生態ががらりと変わったことの調査、並びに原因の撃滅。中々骨の折れるお仕事だとは思いますが、まぁやってやれないこともないでしょう。

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