第3話 パン屋さんって危ない仕事なんですね…

 ギルド所属から二か月。私ロディは、パン屋さんに住み込みで働かせてもらっています。


 理由はローンの返済とギルドの所属費を捻出するためですね。元から力仕事も早起きも得意ではあったので問題は全くないのですが、できればもっと凄い仕事をしたかった…


 こう、頑張って人の役にたった!っていう実感が欲しいんですよ。


 いえ分かっています。パン屋さんだってちゃんと人の役に立つ仕事だと理解は、理解はしてるんです。でも、やっぱり冒険ーとか、護衛ーとか、そういうものと比べてしまうとどうしても、ね?


「ロディちゃん、頑張ってるねぇ!このままウチの看板娘になるかい?」


「あはは、えと、考えときまーす」


 おばちゃんにはとても良くしてもらっているし、なんならパン屋さんでの稼ぎでローンの返済もギルドの所属費も、だいぶかつかつではありますが滞りなくできているので、本当に就職しちゃおうかな。と考える時があります。


 でも冒険者として登録している以上、なにかやってみない限りは終われないという気持ちが強いですね。


 などと考えながらパンを売ること10時間。大方のパンも売り切れて、もう店じまいとなったころ


「おいババァ金を出せ!」


 招かれざる客、といいますか、強盗が押し入ってきました。数は二人、斥候の第二界技である≪探知≫を入れてみたところ、彼らのみの犯行のようですね。増援もなし、これなら大丈夫ですね。


「あのー、さっさとお帰りになったほうが身のためですよ?」


 バックヤードから顔を出します。意識は二人とも私に向きましたね。武器は二人とも短剣。屋内での戦闘には向いていますが、残念ながら私を倒すには火力不足です。


「何だテメェ―」


 相手がアクションを起こす前に、全部の職の共通第一回技である≪身体強化≫で距離を詰めます。私の手にはトングとパンを収める草で編んだかご。


 まず一番近い強盗の鳩尾に蹴りを一発。入り口付近まで飛ばします。何も構えていないところを見ると、一般人相手に技術は必要ないと踏んだようですね。あれじゃあ起き上るのに最低でも10分は必要ですよ。


「クソがっ!」


 もう一人が短剣を振り下ろしますが、それに合わせてかごを放ります。反射的にそれを切った振り終わり、これに合わせ拳闘士の第二界技≪剛腕≫を付与したトングで短剣を掴み、ひねる。


 これだけで簡単に剣は相手の手を離れます。後は空いた左手で共通技第一界技≪強撃≫で顎に掌底。意識を刈り取るにはこれで十分です。


「…さ、憲兵さんに突き出しましょうか」


「ロディちゃん、ありがとうねぇ。おかげで助かったよ!本当にうちに就職しないかい?」


「それよりもほら、憲兵さん呼んできてください。私縛っちゃうんで」


 おばちゃんの言葉を受け流しながら、斥候の第一界技≪捕縛≫で手際よく強盗たちを縄で縛ります。案外パン屋さんも危ないお仕事でしたね。




 星の輝き人事担当、ウォルターは通りすがりに信じられないものを見た。自身のギルドに所属している新人のロディが、周りに一切の被害を出すことなく強盗を捕縛していたからだ。


 彼が驚いたのは戦闘技術もさることながら、彼女の技の多彩さと精度である。探知、身体強化、剛腕、強撃、ついでに捕縛。これらは『全くの別系統の職』の技である。最低でも斥候、戦闘職の二職は彼女一人でこなせることになる。

 確か採用の履歴書欄には強弓や、第二界までの回復魔法も使えるとの記載があったはず、ならば斥候に戦闘さらには回復と、彼女だけでどんな依頼でもこなせるではないか。そして恐らくその精度は一つひとつがとても高い。今の戦闘を見るに、少なくともB+~A-レベルはあるだろう。

 普通、あの手の技は覚えたらさっさと次の界習得に進んだ方が強いので、疎かにしがちである。しかしロディはそれだけを磨いているようだ。こういった閉所での戦闘はむしろ第一界や第二界の技能の方が生きるが、それにしてもよく磨かれた技の数々である。


 それならば彼女に一つ仕事を任せてみようかと、少し期待しながら彼は帰路に着くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る