スラムの死神

ryuzu

第1話 死神

 外はまだ仄かに明るく、その部屋にも外界の明かりが微かに入り込む。開け放たれた窓から入る風がカーテンを揺らし、外の光が部屋の中の少年を怪しく照らした。

 少年の足元には、ふくよかというにはいささか肥えすぎた中年の男性が平伏し、自分の命の懇願をしていた。


「た、頼む......殺さないでくれっ!」

「そういわれても困る。ここでお前を殺すほうが、俺にとっては得なんだ」


 助けを求める声に対して、無感情に返答する少年。マスクで顔は確認できないが、

その相貌が怪しく光る。


 瞬間、金属光沢の光が走り、その男の首は跳ね飛ばされた。


 男の首跳ね飛ばされ、その体はゆっくりと崩れ落ちた。噴水のように噴き出す、その返り血を全身に浴びながら少年は身に纏っているボロのローブを脱ぎ捨てた。


「はぁ、汚い血だな」


 死体となった男性を蹴り飛ばし、血飛沫を飛ばしながら壁に衝突した死体を確認して少年はその場を後にした。




 少年がその建物を後にしてから実に2時間後、少年がいた部屋から男性が出てこないことを不審に思ったメイドが部屋にが悲鳴を上げる形でその死体の存在が明るみになった。


 そのきれいな切り口と、相手に一切の抵抗を許さない鮮やかさ。何より、誰にも気づかれずに、まだ外に人がいる状況で殺しきるその技術。その死体を見た専門家は、技術の高さと手口から、皆同じことを口にした。


「これは、死神の仕業だ」


 死神――日本のある業界で活躍する実力者の異名。その名前は、多くの権力者たちを恐怖させる。その正体も、性別も、年齢も、メイン武器も、そのすべてが何も分からない状況にある。ただ一つ分かっているのは、どれだけ厳重な警備をしても、どれだけ屈強な戦士を配置しようとも、その全てを乗り越えて、確実にターゲットを殺すということ。


 その前にどれほど高い壁があろうとも、どれほどの策を練ろうとも、すべてが無に帰す。


 死神は、今日も人を殺す。誰にも悟られることなく、誰にもその存在を認知させることなく。


 今日も人々に「次はお前の番だ」と、恐怖を植え付ける。


 何不自由ない、何も恐れることがない支配者層の人々が唯一恐れる存在。その圧倒的実力は、権力者たちの行動を制限させるほどだった。


 事実、一部の権力者たちには、「抑止力」とも呼ばれていた。


 それが「死神」である。

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