第97話



 それより以前に海賊船内では、


「ウイス、後部座席に誰を乗せるか、希望があれば言ってくれ」


 船長のクロウが尋ねる。


「そうだねぇ、後部座席は射撃手だ、砲術班から選ぼうか・・・」


「で、それなら誰にするかね?」


 砲術長のキストが尋ねる。


「そうだねぇ、バスコ。なんか良いんじゃね?」


「何を言っているの! バスコは砲術班の中でも1番の新入りよ」


 ウイスの要望に応えたのは航海長のダフォーであった。


「そこだよダフォー。実戦で鍛えてやるっていう親心さ」


「あなたにできるの!」


「安心するんだ、ダフォー。ウイスは母星で宇宙防衛校砲術科の教官だったんだ」


 クロウの言葉に


「嘘、しょ?」


 と驚いてダフォーは返事をするが、


「知らなかったのか?」


 と何気ないようにウイスが答える。

キストが無線機を耳に当てながら、


「こちらキストだ、バスコに変わってくれ」


「はい、バスコです」


「うん、この忙しい時に申し訳ないんだがね、今すぐに二人乗りの迎撃機ハァー2の後部座席に乗って欲しいんだ。なぁに、砲筒の口径がでかいか小さいかだけで基本的には変わりゃしないよ。じゃ頼んだぜ」


「キスト? バスコは、返事をしたのか?」


「この非常事態だ、飛ぶしかないだろ? 奴もそれくらいのことは理解できないと海賊船から降りなきゃならないよ」


「じゃ、俺は離発着室に先に行ってるよ」


「ウイス、新入りを頼んだ」


 クロウの声にウイスが答える、


「ああ、わかっているよ。実戦が訓練だとは、あいつもよくよく運がいいね。実戦ほど訓練になるものはないからね」


 背を向けて言いながら、ウイスは艦橋を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る