第91話



 ニーナが艦橋に行くと、船長は居なかった。


「船長は、何処かしら?」


 それを聞いて航海長のダフォーが振り返り、


「さっき出て行ったわ、多分、船長室だと思うけど」


「どうしたんだい? ニーナ」


 副長のウイスも振り返りながらニーナに尋ねる。


「ルーが、ルーが独房に、独房って何処かしら?」


「はぁー、独房? そんなものこの船にはないぜ」


「ええ? でも、ルーが・・・」


「独房って、もしかして、月からの攻撃隊のボルグの件かしら?」


「ええ、人を殺してはいけないって」


 その言葉に答えたのは、またしてもウイスであった。


「ああ、そういう決まりだ。然しなニーナ、俺たちは海賊船だぜ。軍隊じゃないんだ、軍法会議なんてありゃしないし、それに全宇宙の星人達ほしびとたちが俺達のことを勝手に海賊船呼ばわりしてるだけなんだから、本物の海賊みたいに鞭打ちの懲罰なんてもんもありゃしねえよ」


「じゃぁ、ルーは?」


「ルーの部屋に行ってみればどうかしら?」


「ええ? 何処ですか?」


「あら聞いてなかったの? そこのパネルに各乗組員の部屋が記載されているわよ」


「分かった、ダフォー。ありがとう、行ってみる」


「ありゃー、まるで恋人だぜ」


「馬鹿なことを言ってないで、副長らしくしていなさい」


「この通り副長らしくしているじゃないか」


「副長席に座っているだけなら、誰でも副長になれるわよ」


「はいはい、ヨーソロー」


「何? それ?」


「地球の言葉で、航海異常なし、って意味らしいぜ」


「それって、マーク・トゥウェイン、じゃなかったかしら?」


「本当かい?」


「忘れたわ」


「俺たちは、もう一度、地球の言葉を勉強し直さなきゃなさそうだな」


「一緒にしないで」


 そう言いながら、ダフォーは操舵輪に手を掛けた。


「そろそろ、光速移動に入るわ、出力全開」


「了解船長!」


「馬鹿!」

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