おもしろい恋人

久石あまね

うちの恋人にならへんか?

 「うちの恋人にならへんか」


 オレは己の耳を疑った。


 恋人にならへんかやて?


 どの口が言うとんねん。


 放課後の誰もいない3-Aの教室。

 

 オレの目の前にいる二階堂あまねはナメクジのような目でオレを見ていた。


 「うちの恋人にならへんかっちゅうとんねん」


 二階堂あまねは顔を真っ赤にして言った。


 オレは混乱していた。でも小便に行きたかった。しかしさすがに小便には行けなかった。


 「あんた小便行きたいんか?」


 二階堂あまねはオレの考えていることを読み取った。


 こいつわかるやつやな。


 たまにこういうやついるよな。


 男子の頭の中がわかる女子。


 「小便行くんやったら先行っトイレ」


 何言うとんねん、こいつは。


 二階堂あまねは口を大きく開け恥ずかしさを隠すようにあくびをした。


 「トイレ行ってくるわ」


 オレはトイレに行った。


 そしてそのまま帰宅することにした。


 オレは教室ではなく昇降口に行った。


 さぁ帰ろう。


 二階堂あまねの恋人なんてオレにはつとまらない。


 あんなに……、変なやつの恋人なんて…。


 近所のゲーセンに寄ったあと、自宅であるマンションに着き、リビングに上がるとオレの母親と二階堂あまねがいた。


 「お邪魔してるで、あんたのお母さんに言って上げてもらったで」


 二階堂あまねはナメクジのような目の奥で「何、黙って先帰っとんねん」と言っていた。「まだあんたの返事は聞いてへんで」と二階堂あまねは心で言っていると思った。


 オレは爆発した。


 「お前なんやねんっ、勝手に人ん家来んなや、そんなことして恥ずかしないんかっ」


 思わず怒鳴ってしまった。だって照れくさかったから。


 二階堂あまねは一瞬たじろいだ。しかし目は本気だった。


 「だってあんたのことが好きやから」


 二階堂あまねの頬に涙が伝った。

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