第三章

第11話

 帰りのホームルーム、


「テストまであと二週間だからしっかり勉強するんだぞー」

と先生が言った。


 一年五組は、学年で一番平均点が低いクラスということで、教師と生徒の間で有名だ。だからか、担任の平塚幸雄は少し必死である。


 ホームルームが終わったあと、葛西が声をかけてきた。


「なあ、ファミレスで勉強しない?」


「悪いが、バイトが入ってる」


「いつもバイトじゃん」


「今日行ったらしばらくバイトは休むよ」


「じゃあ、明日行こうぜ」


「いいよ」


 明日の放課後、葛西とファミレスで勉強をすることになった。多分、勉強をしないでずっと喋っているだけだろう。


「じゃあ、また明日な」


 そう言って葛西は、スクールバスに乗った。俺は、自転車置き場にいき、自転車に乗ってバイト先のコンビニに向かった。



・・・



 バックヤードで着替えていると、


「今日、バイト入ってたっけ?」

と天野さんが声をかけて来た。


「今日やったら、三週間くらい休みます」


「そうなんだー、なんで休むの?」


「定期テストがあるんで」


「もうそんな季節かー。俺はテスト勉強しないでバイトばっかしてたから悲惨な結果だったなー」


 そういうが、天野さんは偏差値七十の男子校に通っていたらしい。そして、現役で国立大学の工学部に受かり、現在通っている。


「本当ですか?」


「本当だよー。留年一歩手前だったからね」


 落ち着いた声で恐ろしいことを言っている。


「でも、国立大学に行ってるじゃないですか」


「まあね、本当は指定校で私立の大学に行きたかったんだけど、行けるところがなかったからね」


 そんな理由で国立大学に受かってしまうのがすごい。俺には、とてもできそうにない。


「そうなんですね」


「鈴木くんは、テスト前に勉強してるから俺みたいにならなそうだね」


「頑張ります」


 そう言って、俺はバックヤードから出た。


 レジに行くと、店長が頭を抱えていた。


「どうかしました?」


「いやー、人手が足りなくてね」


 ここのコンビニは、お世辞にも時給が高いとは言えない。だから、他のコンビニでバイトをする人が多いのだろう。


「外国人とか雇えばいいんじゃないですか?」


「うーん、英語が話せないからな」


「交換留学生とかは、それなりに日本語話せるんじゃないですか?」


「そうかな?」


「英語は、最悪天野さんに頼めば」


「それもそうだな」


 この一声で、店長の顔色が良くなった。そして


「よーし、今日も頑張るぞ」

と変なスイッチが入ってしまった。


 午後九時まで、この店長と二人きりでいるのが少し怖い。そんなことを思っていると、


「ワタシ、ココデバイトシタイ」

とボビーオロゴンみたいな人が来た。


「ちょっと待っててください」


 俺は、隣のレジにいる店長に


「バイトしたいって人が来ました」


「本当か!?」


 そう言って、店長はその外国人のところに行き、話をし始めた。その会話をずっと聴いているが、かなりカオスだった。


「ワタシ、バイトシタイ」


「いいですよ、いつからシフトに入ります?」


「シフト?ワタシ、バイトシタイ」


「明日から来れますか?」


「アシタ、タブンダイジョウブ」


 そんな会話を聞いていると、バックヤードから天野さんが出て来た。


「まだ、帰ってなかったんですか?」


「今、帰ろうかと思ってたところ。店長どうしたの?」


「バイトしたいって言ってきた外国人と話してます」


「なるほど、ってうちの大学にいる子じゃん」


 そう言って、天野さんはその外国人のところに行った。


「Hello、James」


「Wow、Mr,Amano !?」


 天野さんとジェームズは、英語で色々と話し始めた。俺と店長は、遠くから離れて見ていた。


「ジェームズのシフトは、俺がいる日に入れてください」

と天野さんが言った。


「ああ、わかった」


 そう言って、店長は紙に色々と書き始めた。


「天野さんと大学が一緒って・・・」


「そうなんだよー、取ってる授業が一緒だから同じシフトにした。多分店長、英語わからないでしょ?」


「さっきのを見てると、そうですね」


「俺が入れば、なんかあっても教えられるし」


「そうですね」


 天野さんは、とても心強い。


「ジェームズさん、よろしくお願いします」


 俺は、軽く挨拶をした。


「ヨロシクデス」


 ジェームズが来てくれたおかげで少しシフトが楽になるかもしれない。


「じゃあ、明日ジェームズと一緒に来ます」


「よろしく」


 店長がそういうと、天野さんとジェームズは店から出た。店長を見ると、冬なのに額から汗が噴き出ていた。


「すごい汗ですね」


「英語できないと現代はキツイんだなー」


 店長は、ハンカチで汗を拭きながらそう言った。その後、大きなトラブルなどなく、午後九時までバイトをした。


 バックヤードに戻って、着替えていると、スマホの通知音が鳴った。通知を見ると、葛西からだった。


「(誠)英単語帳持ってる?」


「(直人)持ってるけど」


「(誠)明日のテストのところ写真で送ってくれない?」


 俺は、バックヤードで英単語帳を出して、写真を撮った。そして、葛西に送った。


「(誠)マジでありがとう。明日、なんでも奢るわ」


 俺は、ラッキーと思った。一番高いものを買ってもらおう。そう思いながら、コンビニを出て、自転車で帰った。




 



 


 

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