俺の家の前で倒れ込んでいたのは学校一可愛いと言われているギャルだった

坂本宙

第一章

第1話

 十一月の半ば、季節は冬に近づいてきているからかとても寒い。俺は、肩をブルブルと振るわせながら一人で住んでいるアパートに向かっている。本当は、こんなに暗くなるまでバイトをしているつもりではなかった。しかし、店長に「あと二時間シフト入ってもらってもいい?」と泣きつかれてしまったから仕方がなくシフトに入り、午後九時半を回ってしまった。次の日が日曜日でよかった。


 アパートに着いて、階段を登った後、俺の家の前に女の人が倒れているのを見つけた。その女の人は、膝が見えるくらい短いズボンにパーカーを着ていて少し寒そうだった。俺は、少し怖かったが声をかけることにした。


「大丈夫ですか?」


 俺がそう声をかけると、女の人は顔を上げる。その顔を見てすぐに、同じクラスで学校一可愛いギャルと言われている米村麻里奈だとわかった。


 長くて少し巻いてあるミルクティーピンク色の髪に大きくてくりくりとした目、とても長いまつ毛、周りはとても暗いがはっきりとわかる。しかし、なんでこんなところにいるのだろう。そんなことを思っていると


「うーん」


 米村さんは、目をこすりながら辺りを見渡す。そして、俺の顔を見て


「鈴木くん!?」

と驚いた表情をしながら言った。俺は、名前を覚えられていて少し嬉しかった。


「なんでここに・・・?」


「このアパートの二〇二号室に住んでるから」


「そ、そーだったんだ」


「米村さんこそなんでここにいるの?」


「実は、二〇一号室に住んでるのー」


「そーなの!?」


 米村さんがこのアパートに住んでいることを俺は知らなかった。しかも、俺の部屋の隣に住んでいるのに。


「なんで外にいたの?」


「実は、鍵を無くして・・・」


「不動産屋に電話した?」


「しようと思ったんだけど、スマホのバッテリーが無くて・・・」


 米村さんは、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「とりあえず、うちに入る?」


「えっ、いいの?」


「いいよ」


 俺と米村さんは、部屋に入った。俺は、部屋に入った後、とんでもないことをしていることに気づいた。学校一可愛いを言われているギャルを家に入れるなんで、学校の友達に言ったら多分、命は無いだろう。


「ねえ、スマホ充電してもいい?」


「いいよ」


 俺は、リュックに入っていたモバイルバッテリーを取り出して米村さんに渡した。米村さんは、スマホにケーブルを刺して充電を始めた。


「まさか、隣に鈴木くんが住んでるとは思わなかったよー」


「俺も驚いたよ。隣に米村さんが住んでるなんて」


 そんな話をしていたら、もう十時を過ぎていた。


「米村さん、なんか食べる?」


「そんなにお腹空いてないから大丈夫」


 そう言いつつも、米村さんはお腹を鳴らしていた。ギャルもお腹が空くみたいだ。


「バイト先から、弁当もらってきたから一緒に食べない?」


「あ、ありがとう」


 俺と米村さんは、コンビニでもらってきた廃棄寸前だった弁当を一緒に食べ始めた。学校一可愛いギャルと食事なんてこれは夢なのか。そんなことを思っていると


「鈴木くんは、いつからここに住んでるの?」

と聞いてきた。


「今年の四月から」


「そーなんだ」


「米村さんはいつから住んでるの?」


「私は、今月の頭から住み始めた」


「そうだったんだ」


 言われてみれば、引越し業者が二〇一号室に入っていたような気がする。


「一応、引越しの挨拶に行ったんだよー」


 全く知らなかった。俺の部屋のインターホンは、なぜか昔ながらの音声しか聞こえないやつで、履歴が残らない。


「ごめん、多分バイトでいなかったのかもしれない」


「バイトしてるの!?校則で禁止されてなかった?」


「申請書出してるから」


「そーなんだ」


 ギャルだから、校則とか気にしてないのかと思っていたけど案外気にしてるみたいだ。


「いつからうちの前にいたの?」


「六時くらいからかな」


 三時間以上もあんなところにいたなんて。


「菜々子と遊んだ後、家に帰ったら鍵がカバンから無くなってたんだよね」


「なるほど」


「まさか、入居して二週間でなくすとは思わなかったよ」


 米村さんは、少し落ち込んだ表情をしながら言った。


「そんな時もあるよ」

俺がそう慰めると


「そーだよねー」

といつものような明るい姿に戻った。


 いつも一人で食べているからかとても寂しく感じていたが、今日は落ち着いて食事を摂ることができた気がする。


「お弁当ありがとう」


「気にしないでいいよ」


 食事を終えて、俺はゴミをまとめていた。すると


「不動産屋さんの電話番号って知ってる?」

と聞いてきた。


「確か、これだと思う」


 俺は、自分のスマホの電話帳を見せた。


「ありがとう」


 そう言って米村さんは、不動産屋に電話をかけた。俺は、その様子を遠からず近からずの距離で見ることにした。米村さんは、何も話さずに電話を切った。


「どうした?」


「本日の営業は終了しましたって言われちゃった」


「そっかー」


 まあ、こんな時間だからしょうがないか。そんなことを思っていると


「今日、泊まらせてくれない?」

と深刻な顔をして言ってきた。


 泊まらせるっていっても女子だし、ベットも一つしかないからどうしよう。そんなことを考えていると


「ダメ?」

と上目遣いで聞いてくる。


「い、いいよ」


 今夜、俺の理性よ、耐えてくれ。

 



 




 

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