第59話

王都から歩き始めて、4日目の昼過ぎ、私たちはハコベ村についた。


かなり立派な防壁が築かれていて、道の正面は壁の切れ目になっていた。そこが恐らくハコベ村の入り口なのだろう。


門番らしき男か立っていたが、しかし、魔力の流れを見るに、彼は漁師の天恵持ちと思われる。


漁師は、三叉槍トライデントを使用する際に、魔力で覆うことができる。持っている武器もまさにその三叉槍トライデントのため、間違いないだろう。


(先日訪れた村と、こことは徒歩で数日はかかる距離になります。にも関わらず、話が伝わっているというのは、これは…面白いことになりそうです)


この国は国土も狭く、調べた限り、せいぜい日本でいうと埼玉県より広く、群馬県より狭い程度しかない。


恐らく、あと数日もあれば、国土全体に『武術系の天恵持ちでなくても魔物が倒せる』という情報が広まっていくだろう。


「……ハル様…情報広がってる…」

「フィニも気が付きましたか…」


すでに下級精霊になっているフィニやリジーには、魔力の流れなどの読み方を教えている。かなり飲み込みがよく、今のように相手の天恵を読み解くのも慣れてきたようだ。


「……革命?」

「それも、そう遠くはないでしょうね。革命があれば、この国の王族・貴族の多くは見せしめとして滅びてしまう運命でしょう」


静かに、だがかなりの早さで、この国は滅びに向かっている。騎士団以外の兵を失いつつある状態なのだから、王族や貴族が抑えられる訳もない。


「……フィニ…この国…未練ない」

「私たち蛇女族ラミアは、もともとこの国の国民扱いされていませんでたしぃ〜」

「うーん、ボクもこの国、出る予定だったよ?」

「私は、そもそも関係ないですね」


フィニ、リジー、ポピー、シイカが、4様の反応をする。が、しかし、この国に対して何も思っていないのだけは、共通しているようだ。


「私がアザレアを含めた、何名か有力な貴族を復讐対象として、血祭りに上げます。そうなればどうやっても滅びには抗えないでしょうね」


主力であり、旗頭であるアザレアをどうにかすれば革命側の勝利は揺るがないだろう。


数の暴力の前には、バンラック程度ではどうにもならない。やはりアザレアぐらい強力な天恵持ちがいなければ、その差は覆せないだろう。


まぁ、それだけではない。


「せっかく精神操作系統の魔法を手に入れたんですから、これを使わない手はないですよね?」

「……ハル様…悪い顔…」


ここ数日、手持ちの魔法から、まだ何人かはいるだろう、強力な天恵持ちへの対策として、1つ魔法を思いついたのだ。ぜひ、どこかでそれを試してみたいものだ。


「人体実験をしたいんですけどねぇ〜レシオたちを残しておくべきでした」

「ハルにぃ、ホントに顔、怖いんだけど…」

「なに、貴女たちには何1つ損をさせることはしませんよ。安心して下さい」


精神操作系統は、脳内の神経伝達、いわばを弄る魔法だ。それと私が得意とする雷創造操作系統。この相性が悪い訳がない。


雷系統の中には、私が創造した精神操作系統への防御魔法もあるくらいなのだ。


「ふくくくく。ホントに人体実験できなくて残念でしたよ…ふふふふ」


☆☆☆☆☆☆


ハコベ村は、人口500人気程度の小さな村だ。


そこに顔が整った美少女が4人もくれば、注目はされる。もし武装してなければ、面倒くさい声をかけてくるやつもいたかもしれない。


「お前ら何者だ!目的を言え!」


だが、武装しているからかだろう、別の意味で変な声のかけられた方をした。村に近づいた途端、様々な武器…厳密には道具…を構えた集団に囲まれた。


「私たちは、魔素材ギルドのハンターです」


そう言って私は、囲んでいる村人たちに、魔素材ギルドのギルド証を見せた。しかし、それで村人たちは警戒を解くことをしなかった。


「ニセモノじゃねぇのか?」

「国から派遣されたスパイかもしれねぇ!」


武装した村人たちは、随分と警戒をしている。これは間違いなく、派遣されてきた門兵たちを殺している、か、あるいは閉じ込めたりなどしているからだろう。


で、なかったから、この警戒は明らかにおかしい。


私は武装した村人のリーダーらしき人を見た。


「それで、私たちをどうするつもりですか?」

「悪いが閉じ込めさせてもらう」

「それは悪すぎて、困りますね。私たちは目的がありますので閉じ込められる訳にはいきません」

「へ、へえ!逆らうと言うのかい!そう言って逆らった門兵も殺されたというのになぁ!」


そう言う、村人の目には狂気が浮かんでいるのを見て私は深くため息をつきた。


虐げられていた民が、力を持った上に逆らう。それは確かに美談ではある。が、だが虐げられていた民がまた、心が清浄とは限らない。


門兵を殺せたことに、心が高揚し、これまでの持つ兵と変わらなくなることだってあるのだ。


「……ハル様…村人…消す?」

「いえいえ。それは物騒です。それより早速、私の魔法が役立つときが来たみたいなので、実験させてもらいます」


フィニは、私に敵意を持った人間をあっさり殺そうとする。もはや、信仰とも言えるレベルで私を好いてくれるのは嬉しいのだが、ここで村人まで殺すのは面倒だ。


「第2門、第9門、混交魔法・崇拝ベネレーション


これは至ってシンプルな魔法だ。私に対する崇拝の感情を電磁波に載せて、拡散する魔法だ。


効果時間はあまり長くはないが、電磁波に乗せることで、遠く離れた人に対しても精神操作系統の魔法を使えるのが特徴だ。


飽くまでラジオ局のように発信するだけなので、相手を特定したりは出来ない。また強力な天恵があると阻害されてあまり上手く受診できないだろう。


だが、そうでない相手なら…。


カランカラン、と音がして、私を囲んでいた武装集団は、持っていた武器を次々に取り落とした。そして、一斉に土下座を始めたのだ


頭を下げ、微動だにしない姿に、魔法がうまくいったことを、確信した。


「ふむ。では、案内してもらえるか?」

「ははーっ!」


先程までの態度はどこへ消えたのか、というくらいの恭しさで、私たちをまるで王の一行を扱うかのように案内しだした。

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