第48話

集団電撃の罠マス・ライトニングトラップ


第9門3階位魔法、集団電撃の罠マス・ライトニングトラップは、文字通り、1階位の電撃の罠ライトニングトラップのある程度の範囲にかけて使う魔法だ。


「あががががが」

「ひぐうううう」

「いてててててて」


オークブレイブには効かなかったが…レシアたちには効果絶大だったようだ。足元からの電撃に、全員が蹲っている。


電撃の罠ライトニングトラップに、殺傷能力はない。ただ単に電撃によって、一時的に神経や筋肉を強く刺激することで、強い痛みと不快感を与える魔法だ。


要するに、電気マッサージのものすごく強いやつだと思ってもらえばいい。一瞬だが、筋肉が痙攣して動かなくなり、人によっては筋肉が攣ってしまうので妨害にはもってこいだ。


加速アクセラレーション


そして、次の魔法を唱えて、自分の時間だけ加速させた。


水の中を動くような感触の中、全く反応ができなき相手の足を通りがかりに切りつながら、隊列の先頭まで移動した。


加速の魔法が切れた瞬間、追手たちの足から血が吹き出して、倒れ込んだ。


「ぐぅっ!?くっ!ふりふクリスか!」

「顎治ってないなら、無理して話さない方がいいと思いますよ?」

「うるへーせぇふりふクリスひはきさま、不意打ちは、ひひょうきょうかいやがっ!」

「卑怯!へぇ卑怯ですか…まさか金魚の糞、そして小悪党の代名詞たるレシアから、卑怯という言葉が出るとは、いやはや驚きました」


私が近寄りながら、右の拳を振り上げると、レシアは「ひっ!?」とか露骨に怯えた悲鳴を上げた。


折れて痛む顎を、執拗に殴られたのが、トラウマとなったのか?必死に追ってきた割には、こんなことでビビっていては拍子抜けである。


「これじゃあ、戦いになりませんよ?」

「く、来るな…来るなァァァァ!!」

「うるさいですね…」


庇っている手をすり抜けてやはり顎を狙う。もはや手応えさえ薄い顎をアッパー気味に殴ると、レシアは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「「「「!!!!」」」」


リーダー格?のレシアが早速脱落したせいか、追手たちに動揺が走る。


いち早く動いたのは、視線の端で捉えていた列の後ろの方にいる軽装の男だ。とは言っても早速、逃げ腰になって、反対方向に向かったのだ。


しかし、ざざ、と農場ファームから出てきたリジーとフィニが退路を断つ様に立ちはだかる。


「フィニ、リジー、容赦は不要です。全力で叩き潰してあげなさい」

「わかりましたぁ〜」

「………うん」


オークブレイブの盾をガッチリ構えたリジーに、軽装の男は一瞬だが躊躇う。しかし、気を取り戻したのか、リジーを左右に揺さぶって、隙を突こうとすしてした。


足を切られているのに中々、殊勝なやつだ。


「面倒ですぅ~」

「はっ!蛇女め、甘いなぁっ!」


左のフェイントに騙されたリジーがそちらに大きく重心を傾けて、移動したところに、軽装の男は右側へ飛んで、横から抜ける。


抜けられた、軽装の男が恐らく、そう思ったのだろう直後。太い鞭のようなものが、飛んできて、胴を横薙ぎにした。


「ふごぉぅ!?」


ドゴ、という殴った、というよりは重いものに体当たりされたような音が響く。太い鞭のようなものに軽装の男は数メートルふっ飛ばされると、地面を転がり、そのまま身動きしなくなった。


男を薙いだのは、リジーの尻尾だ。オークブレイブの鎧を少しだけ加工して、リジーの尻尾に合わせたのものをつけている。


リジーの尾は大人の胴ほどあり、それが勢いよく振るわれれば、当然だが、かなりの破壊力になる。ましてや、金属で武装していればその威力は段違いに上がる。


軽装の男は、恐らく自らの骨が粉々に砕ける音を聞いたことだろう。


「ふぅ。やっとひっかかってくれましたぁ〜」

(えげつないですね…)


魔力を通せていないので、魔物には効かないが、対人では決定打になる。軽自動車との交通事故程度の破壊力はあっただろう。


「そのうち、魔力操作で武器にも魔力を巡らせる方法も教えないといけませんね」


ピクリとも動かない軽装の男の様子に、ほかの男たちが完全に沈黙をしてしまった。そして、起きている3人は、レシアを強く睨みつけた。


「レシア、天恵なしの無能クリスハルを殴るだけの簡単な仕事だと言っていたな!いくらなんでもこいつら!強すぎるぞ!」

「こ、怖いよ〜。楽にいたぶれるって言ってたからついて来たのに、嘘つきー」

「そうです!責任を取って、貴方だけが死んでください!僕は伯爵家の跡取りですよ!」


なるほど、こいつらは、レシアの貴族仲間か。顔をよく見てみれば、クリスハルの記憶にも端っこの方に出てきていた気がする…。


そうだ、裸に剥かれて、晒されたときに笑いものにして見ていた多数の貴族の中にいた連中だ。


(つまり、あの学院でクリスハルを虐めていた連中の一味な訳ですね。要するに殺してしまっても全く問題なさそうです)


一番の手前にいた伯爵家の跡取りだと騒いでる貴族の男に近寄る。この男、リジーには怯えていたようだが、近づいた私には勝てると思っているのか、侮蔑的な笑みを浮かべた。


「あの蛇女族ラミアは恐ろしいようですが、無能クリスハルは雑魚のままですよね!僕の剣で殺してあげましょう!」

「はぁ…まぁ、どうせ殺すつもりでしたから、何を言おうと構いませんが…」

「クリスハルごときが僕を殺すだと!?」


伯爵家の跡取りは、剣を抜き放ち両手で構えた。なるほど、偉そうにするだけあり、剣の腕はそれなりのもののようだ。


ヒルデスよりは確かにマシではあるが、グラムスにすら及んでいない雑魚である。


「フハハハハハ!寝言は寝てから言えエエエエエエィィィッッッッッッ!?」


ユピテルを抜き放ち、向けて一閃。構えていた両手がポロリと落ちた。その両手で握っていた剣もカランカランと音を立て地面に転がる。


「貴方も寝てなさい」

「ギャワワワワっっ!?」


靴に魔力を流してから、下段脛蹴り。筋力強化の上に、魔力を通して靴の打撃力も上げた蹴りに、伯爵家の跡取りの脚が膝の下から、2つに曲がる。


ただし、本来曲がらないところで。


激痛のためか、負けたことを認められないからか伯爵家の跡取りは泡を吹き、白目になって地面に転がった。


「さて、残りの2人は、と…」

「ハルさん〜終わりましたよぉ~」


フィニとリジーの2人も、どうやら片が付いたようだ。レシア……軽装の男……今、腕を切った伯爵家の息子……5人から3人減って、残りは2人だったはずだが…。


1人は脚が短剣でハリネズミみたいになっていて、もう1人は脚が潰れていた。どちらも意識を手放しているが、仮にそうでなくても、これだけの状態で戦いは続けられないだろう。


呆然としていたレシアの脚も蹴り折っておき、逃げられないようにする。俺からの暴行に、レシアは動かない顎でモカモガと叫ぶが気にしない。これで、追ってきた全員が動けない状態になった。


「2人とも手際良いですね」

「……任せる」

「ええ。戦力としては充分過ぎるようです」


2人はすでに武術系天恵持ち、というだけで勝てるレベルではなくなっているようだ。魔法による強化も手際が良くなっていくだろうから、今後はさらに強くなるだろう。


「で、ハルにぃ、この人たちどうするの?」

「そうですね。トドメを私たちが刺すとなんらかの形で証拠が残る可能性もあります。こういう後処理は別のものに任させましょう?」

「んん??別のものって誰???」

「ええ、とですね」


説明しようと思ったとき、フィニの耳がピクリと動いた。どうやら、その『別のもの』の気配がしてきたようだ。


「………ハル様…来た」

「みたいですね…ポピー、急いで、農場ファームの扉を開けてください」


突然、名前を呼ばれたからか、キョトンとしたポピーが目を丸くする。


「え?ボク?わ、わかった」

「ええ。もう近くまで来ていますので、みんな急いで下さいね」


慌てて、農場への扉を作り出して、開く。扉の向こうにはさっきまで入っていたものと同じ異界が広がっている。


「…ハル様……武器…取り上げた…」


フィニは、私が指示する前に、やるべきことをやってくれていた。レシアたちの武装を、何回かに分けた引き寄せの魔法で、扉の前に集めていた。


「では、この武装も農場に放り込んで…私たちも中に入りますよ…と」


アオオオオオオオオン


狼の遠吠えが聞こえてきた。恐らく百メートル以内にはいるだろう。


「だいぶ近くに来ましたね」

「もしかしてファングウルフ?」


ホピーがおっかなびっくり問うてくるが、当たらずも遠からず、と言ったところか。


「このあたりはファングウルフが多くて、食い合いの果てに、魔力を貯めて、強くなった個体が結構いるんですよね?」

「……うん……アーミーウルフ…」


文献を調べている限り、アーミーウルフとなると、一体がオークナイトに近い魔力濃度になるようだ。


「あ、アーミーウルフ!?一体はオークナイトと互角ですけど、群れで連携してかるから、めちゃめちゃ厄介なやつですよ!?」

「だから、手早く逃げようとしているんですよ」「あ…なるほど…」

「そして、この付近に私たち以外の人はいませんから、ここで倒れている彼らが生き残る可能性はありません。アーミーウルフの餌として命を終えるでしょう。そのために足を狙いましたから。さ、みなさん中に入りましょう」


3人が中に入り、最後に私が扉に手をかけ入ろうとしたところで、さっきよりもさらに近いところから、吠え声が聞こえてくる。


声の方を見れば、すでに遠くにはアーミーウルフの姿が見えてきていた。あと1分もあればここにたどり着くだろう。


慎重に距離を詰めてくるアーミーウルフの姿に、唯一意識のあるレシアは顔を青くした。


「ま、ま、おをどうするつもりだ!」

「あれ?わかりません?何もせずに、ここに置いていきます。私が貴方たちに復讐する理由は言わなくてもわかりますよね?」

「ひ、ひぃ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆるふらはください」


この状況の不味さはレシアの頭でも理解できたのだろう。一も二もなく、レシアが頭を下げてくる。もちろんそんなことで許すわけもない。


「許すわけないことくらい、わかりますよね?アーミーウルフが貴方たちを処理してくれれば、私に疑いがかかる可能性も下がりますしね」

「ま、ま、まっへふてくれ!」

「待ちません。では、さようなら」

「〜〜〜ッッッッッ!!!」


声にならない絶叫と、レシアが顔に浮かべた絶望に満足して、私は農場ファーム内側から扉を閉める。生きながらに食われる。最後を見ることが出来ないのはつまらないが、レシアへの復讐はこれで十分だろう。





☆☆☆☆☆以下余談☆☆☆☆☆


ギフト、またいただきました。誠にありがとうございます!執筆の励みになります。


引き続き、レヴューや☆、良いね、コメントをいただけると励みになります。何卒!何卒よろしくお願いします!

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