第48話 決闘
食事を終えた頃ドーナットが姿を現し俺の赤の作業着を見て歓喜の声を上げる。
「よくやったムッチリーナ!俺も大罪人様にこそ赤の作業着が似合うと思っていたんだ。お前に大罪人様の世話を任せてよかったぜ」
「当然の事よ。後の事は私に任せてちょうだい。ベルクヴェルク伯爵とバードック隊長には私から説明しておくわ」
「そうだな。お前の話しならベルクヴェルク伯爵も耳を傾けるだろう」
ドーナットはニタニタと笑い喜びが溢れ出ている。
「大罪人様、お部屋の準備が出来ましたのでご案内いたします」
「わかった」
ドーナットは終始俺におべんちゃらを言う。少しでも俺に気に入られようと必死だった。しかし、そんなドーナットの態度に俺もまんざらでもない。クライナー達に大悪党と勘違いされて以降、みんなからちやほやされてとても気持ちが良い。今までの人生で味わったことない高揚感を得て、ますます俺は有頂天になってしまう。
「大罪人様、この部屋をご自由にお使いください。何か御用があれば机の上の赤い石を押すとすぐに私が飛んで参ります」
「ありがとう。お前の俺への振る舞いはとても気持ちが良いものだ。何か困った事があれば俺に相談をしろ。悪いようにはさせないぞ」
俺には何の権限もないが、一度はこのような言葉を言ってみたかったのだ。
「ありがとうございます。それでしたら、私を隊長の座に昇進させてください。あのバカの下で働くのは嫌なのです」
「わかった。考えておこう」
いきなり懇願するとは思っていなかったので、俺の額からは冷や汗が流れ出る。しかし、ここで弱気な態度を見せるわけにいかないので、無難な言葉をかけることにした。
俺の言葉を聞いたドーナットは満面の笑みで喜んでいた。俺はそんなドーナットの姿を見て、少し悪い事をしたと反省する。
「今頃ムッチリーナが、ベルクヴェルク伯爵邸に向かってるはずです。必ずや大罪人様をマインディレクターに任命させることでしょう。これで、この鉱山の採掘量も爆上がりして、皇帝陛下から褒美が出る事間違いなしです。大罪人様のご活躍を期待しております」
そう告げるとドーナットは扉を閉めて部屋から出て行った。残された俺は、この世界で初めてフカフカのベットで横たわり心地よい眠りに就く事ができた。
「大罪人様、大罪人様、起きてください」
ドーナットの大きな声で俺の心地より眠りが終焉を迎える。
「大罪人様、お休みのところ申し訳ございません。ベルクヴェルク伯爵が呼んでおられます」
「わかった・・・どこへ向かえば良いのだ」
「この階の中央には会議室があります。そこでベルクヴェルク伯爵が待っていますのでご案内致します」
俺はドーナットに連れられて会議室に向かった。
ドーナットは会議室の扉をノックしてから開き背筋正して一礼してから入る
「失礼します。大罪人様をお連れしました」
「コイツが噂の200年刑期の大悪党か・・・思っていたほどの悪人には見えないな」
会議室には大きなテーブルがあり、ベルクヴェルク伯爵は大きな椅子に腰を掛け、両脇にバードック隊長とムッチリーナが姿勢を正して立っている。そして、ベルクヴェルク伯爵は拍子が抜けたかのように顔が硬直している。
「ベルクヴェルク伯爵、人を見た目で判断してはいけません。大罪人様は帝都に姿を見せた黒龍神の御使い様でさえ、仕留める事が出来なかった大悪党です」
「ムッチリーナ、お前はその話しを信じているのか?俺はまだ完全に信じる事はできない」
バードック隊長はまだ俺の事を認めていないようだ。
「それなら試してみるといいわ。【暗闇の閃光】を殲滅した大罪人様と戦う勇気があるのならね」
バードック隊長は俺の方を睨みつける。ここでビビったら俺の正体がバレてしまう。ここは一発かまさないといけないところである。
「俺はいつでも勝負は受けてやる」
思ってもいない言葉を俺は述べる。
「・・・」
バードック隊長は唇を噛みしめ体を震わせて黙っている。
「威勢が良いのは口だけだな。部下に偉そうに言っても俺の前では生まれたての小鹿だな。ガハハハハ、ガハハハハハ」
バードック隊長が俺にビビっているのは明らかだ。ここは追随をかましてどちらが上かわからせてやろうと思った。
「・・・☆〇☆×」
バードック隊長が小声で呟くが、何を言っているのかわからない。だが、ごめんなさいと言っているのだと俺は読み取った。
「黒龍神のカスに力を貰ったくらいで調子に乗るな!俺にかかれば聖寵者など赤子の手をひねる程度に簡単な事だ」
俺は勝ちを確信して怒鳴りつける。これで怯えて涙を流して逃げるに違いないと俺は妄想した。
「確かに俺はお前にビビっている。そんな俺をバカにするのは構わない。しかし、俺に力を授けて下さった黒龍神様の事をバカにするのだけは許さない。外に出ろ!黒龍神様から授かった力がどれだけお前に通用するかその体に教えてやる」
先ほどまで小鹿のように震えていたバードック隊長はいない。今俺の目の前に居るのは怒りに満ちた勇猛なバードック隊長である。俺は言ってはいけない事を言ってしまった。
「・・・」
次は俺が怖くて声が出ない。
「大罪人様、あのバカに大罪人様の力を見せつけて下さい。私はずっとあのバカが嫌いだったのです。私は大罪人様に付いていきます」
喋れない俺の代わりにドーナットが吠える。
「ベルクヴェルク伯爵、大罪人様とバードック隊長の決闘を認めて下さい。いかに大罪人様が強いのかご自身の目で確認された方が良いでしょう」
「そうだな。バードック隊長はウォーリアーの職業を持つ聖寵者。しかも、力の研鑽に励み冒険者ランクで言えばCランクだ。個人の力では【暗闇の閃光】より上のはず。もし、バードック隊長に勝つことがあれば、そやつをマインディレクターに任命してやろう」
俺の不用意な発言によりバードック隊長との決闘が確実なものとなる。冒険者ランクで言えば俺はランク外のヘタレである。万が一にも俺が勝つ可能性はない。そんな俺の窮地にさらに追い打ちをかけるような出来事が発生する。
『ゴロゴロゴゴゴゴゴ!ゴロゴロゴゴゴゴゴ』
外から激しいカミナリ音が響き渡る。
「ベルクヴェルク伯爵!大変です」
血相を変えた兵士が会議室に飛び込んで来た。
「いきなりドアを開けるとは失礼だぞ!」
バードック隊長が怒鳴りつける。
「申し訳ありません。でも、緊急事態なのです。竜人族が攻めて来たのです!」
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