第2話 リアルモード

 「面倒くさい運営だな。そんなに課金して欲しいのかよ」


 基本プレイ無料のゲームにより、ゲームを作るのにどれだけお金が必要かを考えないゲームプレイヤーが増えてきている。基本プレイ無料ゲームは、ゲームを作るだけでなく、ゲームを維持していくのにもお金がかかる。新しいイベントやマップの拡大、キャラや衣装の追加など、随時ゲームの世界は現実世界のように進化していくのである。ゲームを面白くするにはお金は必要だ。

 俺もそれくらいは理解している。しかし、まだどのようなゲームか試していないのに課金はしたくない。それが俺の本音である。


 俺は自分の意思を貫き無課金にて設定を終えた。残るはキャラの作成と名前の設定だけになる。俺はいちいちキャラクリを設定するのが面倒だったので、初期デザインのままにして、名前も簡単に『あああ』と入力した。


 すると画面は利用規約画面に映り変わった。いつもならゲームをダウンロードした時に利用規約画面が開き、長文の利用規約が映し出され、最後に同意するに『はい』を選択する事になる。しかし【七国物語】では、キャラクリが全て終わった後に利用規約の画面が現れたのであった。

 俺はいつもの通りに利用規約をきちんと見ないで『はい』を選択する。今まで特にトラブルになった事がなかったので、長い利用規約を読む気にはならなかった。


 『本当によろしいのですか?』


 念を押すように確認画面が出るが俺は躊躇なく『はい』を選択した。


 『本当に今の種族、職業、、魔法、スキル、装備で、よろしいのでしょうか?まだ、やり直すチャンスはあります。もう一度真剣に考えてください』


 「なんて、うざいゲームなんだ」 


 俺は思わず大声を上げてしまった。こんなにしつこい警告文は初めての体験だった。俺はかなりイライラしていたが、気を落ち着かせて『はい』を選択して先に進める。

 すると、急にモニターが激しく光り出したので俺は思わず目を閉じてしまった。激しい光りだったので、すぐに目を開ける事が出来ずに数秒は目を閉じていた。そして、光りがやわらいできたので俺は目を開けた。すると、目の前には大きな木々が聳え立っていた。


 「ここは何処だ?」


 俺は先ほどまで自分の部屋にいた。しかし、目の前に広がる光景は部屋の中ではない。



 「これは…夢なのか?」


 これが妥当な答えであろう。俺はゲームをしている最中に寝てしまい、ゲームの世界にいる夢を見ているのだろう。テレビをつけたまま寝ると、テレビの内容に近い夢を見る事がある。それと同じように、ゲームをしながら寝たので、ゲームの世界のような場所の夢を見ていると結論づけた。

 ここが夢か現実か調べる方法は簡単だ。原始的なやり方たが、ほっぺをつねってみる事にした。ほっぺをつねっても痛く無ければ夢だ。俺は確実に夢だとわかっているので、躊躇なく思いっきりほっぺをつねる。



 「痛てぇーーー」


 俺は思わず大声を上げてしまった。おもいっきり頬をつねったので頬は赤く腫れ上がっていた。


 「夢じゃないのか。それなら、ここはどこなんだ」


 俺は頭を抱えて座り込む。そして、俺はある事に気づく事になる。


 「なんだ、この服装は?俺はこんな服持っていないし、こんなボロ切れを継ぎ接ぎした服なんて、どこにも売ってないぞ」


 何気なく目にした自分の服装に俺は驚愕していた。俺は先ほどまでは部屋着である黒のスポーツブランドのスェットを着ていた。スリムなタイプで、上下セットで30000円もする俺のお気に入りである。しかし、今俺が着ている服はボロ布を継ぎ接ぎして作られた見窄らしい服だった。ズボンの膝には穴が空いているし、裾もボロボロに破れていた。


 「まさか…」


 俺はこの服装に見覚えがある。これは【七国物語】で俺がキャラクリで作ったキャラクターの服装だ。課金をすればオシャレな装備品を身につける事が出来るのだが、俺は一円も使いたくなかったので、初期装備のボロ布の服のまま選択した。もちろん、武器、防具の類いも全くない。もし、いきなり魔獣に出会したら戦う術はない。


 「あああ様、【七国物語】の世界へようこそ」


 いきなり俺の脳へ直接アナウンスが流れ出した。耳を塞いでも直接このアナウンスは俺の脳へ届く仕組みになっている。


 「100円でも課金してくださった方はゲームモード、リアルモードのどちらか選択する事が出来ます。無課金の方は利用規約で説明した通り強制的にリアルモードからのスタートになります」

 

 俺は無課金だったのでリアルモードになっていた。リアルモードとはゲームの世界を直に感じる事ができるシステムである。そもそも、そんなシステムが存在する事を俺は知らない。


 「そんなの聞いていないぞ。すぐに元の世界に戻してくれ」


 アナウンスは一方的に俺の脳に流れるだけで返答はなくガイダンスは続く。


 「あああさんがクリエイトした姿でゲームの世界を楽しんで下さい」

 「待ってくれ、お金なら払う。ゲームモードに変更してくれ」


 俺は大声を上げて訴えるが、アナウンスは無慈悲に流れる。


 「リアルモードを説明させていただきます。この内容も、利用規約と重複しますのでスキップする事も可能です」


 俺は利用規約など全く目を通していない。ここからの説明はとても需要な内容である。俺は固唾を飲んでアナウンスに耳を傾けた。

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