7国物語~課金すればするほど強くなるゲームの世界に閉じ込めれらた無課金のプレイヤーと1,000万円のレアガチャをしたプレイヤー達の冒険譚~

にんじん太郎

第1話 無課金でのスタート

 俺は50歳で独身、実家暮らしのいわゆる子供部屋おじさんだ。あまり誇らしげに言う事でもないが、月収15万以下の底辺サラリーマンの俺にとっては素晴らしい環境である。

 食費、光熱費、家賃はもちろんのこと、家事や洗濯、食事もついて、月に家に2万円を支払うことで手厚い待遇を受ける事ができる小さな楽園である。

 こんな好待遇な場所はどこを探しても存在しない。近い将来は親の介護をしなければいけないリスクはあるが、それは何処に住んでいても同じ事。もし、親が健康で長生きすれば介護もしないで済むという可能性も秘めている。

 少ない給料でも実家住まいだと、最低限の娯楽を満喫できるので、1人暮らしをするのは馬鹿らしい。


 実際はたいした趣味もないので、老後の為に少しずつ貯蓄をするのが現状の俺である。仕事を終えて家に帰れば、録画したアニメやお気に入りのYTubeを見たり、無課金でできるゲームをするのが、俺の数少ないお金のかからない趣味だと言える。


 今日はゲームを紹介するYTuberの動画を見て、是が非ともプレイしたいと思っていた新作のMMORPG【七国物語】の発売日だ。もちろんこのゲームは基本プレイ無料である。しかし、このゲームの特徴は、最初に課金すればするほど強くなる事が出来る重課金者におすすめするゲームとなっていた。

 YTuberのヒロヒロさんが言うには、初期の設定は全て課金が必要であり、無課金で始めると、ゲームの難易度が地獄レベルに跳ね上がり、困難極まる状況に陥る可能性があると警告をしていた。さらに、ゲームの運営会社もゲームをストレスなく進めるには最低でも10万円程度の課金を推奨しますとコメントを出していた。


 無課金ゲーマーの俺としては、1円たりとも課金はするつもりはない。一応、無課金でもゲームは楽しむことが出来るのが基本プレイ無料のゲームの醍醐味だ。もし、ゲームが面白ければ後から課金すれば済むことだし、一度プレイしてからでも遅くはないだろうと俺はこの時は考えていた。俺はこの考えを後で激しく後悔する事になる。


 俺は【七国物語】をパソコンにダウンロードしてゲームを開始する。まず初めに設定するのは種族である。【七国物語】には7つの種族が存在する。

 人間 エルフ ドワーフ 獣人 亜人 海人 竜人の七種族だ。獣人とは見た目が獣の人型の種族であり、亜人とは見た目は人間に似ているが、獣の特性を持つ種族である。

 海を支配する海人。空を支配する竜人。そして、陸地を支配するのが人間である。エルフ、ドワーフ、獣人、亜人の四種族は陸地のかぎられた地域に生息するレア種族である。

 陸地を支配する人間だが、陸地の大部分は魔獣と呼ばれる生物に支配されているので、人間が生息するのは陸地の3割程度に過ぎない。

 

 どの種族を選択するかによって、スタート地点も異なり、やるべき目標も違ってくる。途中で種族を変更する事はできないので、種族の選択が重要なキーとなる。

 

 無料でスタート出来るのは人間のみで、エルフ、ドワーフ、獣人、亜人を選択するには、10万円の課金が必要だ。そして、竜人、海人に至っては30万円の課金が必要となる。


 このゲームはテストプレイ、体験版などはなく、実写と遜色ないトレーラー映像のみしか情報は開示されていない。なのでYTuberのヒロヒロさんも運営が発表した文章とトレーラー映像でどのようなゲームか紹介していた。


 エルフ、ドワーフ、獣人、亜人は人間を遥かに凌駕する能力を秘めており、人間が住む土地から離れた場所で暮らしている。課金をしてこの四種族を選択すると、それぞれが暮らす大地からスタートし、優れた能力を生かして、ゲームをスムーズかつ快適に進められる事が保証されている。

 重課金をして海人、竜人を選択すると空の覇者、海の覇者としてスタートする。そこから、どのように地上に住む種族と接触をするのかは何も説明はされていない。

 そして、無課金で始めると人間からのスタートになる。


 『本当に人間でよろしいでしょうか?【七国物語】ではレベルという概念はありません。最初に選んだ種族でプレイヤー様の運命が決まると言っても過言ではありません。人間よりも他の種族の方が圧倒的に能力値が高く、この世界での生存率は格段にアップします。今一度お考え直してください』


 運営も課金をしてほしいから必死なのであろう。しかし、俺は迷わず課金をせずに人間を選択した。すると、次は職業を選択する画面に変わる。職業とは人間族のみ存在するクラス分けのようなもので、クラフトマン(職人) ウイザード(魔法使い) ウォーリアー(戦士) クラージー(聖職者)の基本職(8万円)から、上級職(10万円)、最上職(30万円)の三つ区分されている。どの職業に就くかは自由であるが、もちろんここでも課金が必要だ。課金をしなければ無職でスタートする事になる。そして、これは重要なことであるが、職業に関してだけは課金をしなくてもゲームを進行していくうえで、職業に就く事が出来ると説明されていた。もちろん俺は課金をするつもりはないので無職を選ぶ。

 次はキャラのスキル、魔法、装備の設定画面に変わった。ここでも課金要素が発生する。お金を支払えば、スキル・魔法を習得することが出来る。装備品に関しても課金で最強の武器・防具を最初から装備してスタートすることができる。【七国物語】では、ゲーム内で無駄な時間を省くために課金によってスムーズにスタート出来るようになっているのだろう。レベル上げやお金を貯めるなど、無駄な時間を費やさないように運営側が配慮しているのかもしれない。しかし、俺にはお金はないが時間はある。ここで一円たりとも使うつもりはない。俺は迷わずに課金をせずに次の画面に進もうとした。

 

 ※種族、職業などによって習得できるスキル・魔法制限される。無職だと魔法を習得しても魔法を発動する事ができない)


 『ここでの課金はあなたの人生を左右する重大な事です。この世界で生き延びるには、十分なスキル、魔法、装備品が必要です。今ここで一円でもケチると後で後悔をして、非常に苦しむことになります。もう一度考え直してください。今あなたが用意できる全ての資金を投入しても後悔することはないでしょう。これはアドバイスではありません。運営スタッフからの警告です。【七国物語】では・・・』


 俺は運営のコメントを最後まで目を通さずに無課金のまま設定をした。少しでも課金をさせようとする運営に俺はかなり苛立ちを感じていた。




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