バフォメット・コア

いさみけい

プロローグ

 夏の東池袋サンシャイン60。

 夕方になってもうだるような熱気が渦巻く東京副都心の夕空を、突如大きな爆発音が引き裂いた。

 あたりにいる人間がいっせいに身体を強張らせ、時が止まったようにその場に凍りつく。

 少し遅れて、あちこちで悲鳴が聞こえる。

 池袋のランドマーク、サンシャイン60ビルの最上階から、黒い煙があがっていた。


 しばらくして、サイレンの音が街中に鳴り響いた。

 日が沈むにはまだ早い時間なのに、サンシャインシティの上空だけが、不自然な濃い紫色に染まっている。

 まるで黒い竜巻のように、大量の烏がけたたましく鳴き声をあげ、ものすごい速さでビルを旋回しながら、上空へと飛んでいく。

 誰も見たことのない、異様な光景だった。

 その異様さを、さらに際立たせるものがあった。

 紫に変色した空の、よりいっそう暗く沈んだ部分から、複数の生物が湧きでるように現れた。

 それを振り仰いだ誰かが、『あぁ……』と声を漏らす。

 それらは皆、この世には存在し得ない姿形をしていた。

 神話にでてくる獣や悪魔。天使や神。はたまた、太古の時代に生きた巨大な竜のようなものまでいる。

 しかしどの固体も不完全で、所々皮膚がただれ、肉が落ち、骨が見えていた。


 断末魔のような音をたてて、湿った風が吹き荒れる。

 今度は乾いた二発の銃声が、ビルの最上階で鳴り響いた。

 その音が合図になったように、割れた窓ガラスの隙間から、二体の獣が勢いよくビルの外へ飛びだした。

 一体は青、もう一体は黒の獣。

 二体は揉み合うように、空中で回転しながら地上へと真っ逆さまに墜ちてゆく。

 その最中、黒い方の獣がいった。

「さあ、契約だ……」

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