白蛇小隊戦記

りゅうのねどこ

第1話『はじまりの風』

2021年10月のある日の夜、シベリアのとある村にて


「ふぅ…最近妙に獣の死体が多くてやんなっちまうぜ…ん?」


 用を足していた酔っ払いの老齢男性がふと上をみると何か鈍く光る金属が動いたように感じた。男性は気のせいだと考え、トイレから出ようとした刹那


「がっ!?」


男性は酒浸りな日々が祟って心筋梗塞でもおこしたのかと思いながら胸の辺りをみると、そこには機械でできた触手のようなものに自分の胸が貫かれている光景が映し出されていた。

 ほどなくして男性はその場に崩れ落ち、絶命した。鈍く光るそれは、返り血を浴びたまま蛇が這うように何かを探しながら移動してゆく。


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「でね、これから友達とご飯を食べにいくのよ。」


街頭で女性がスマートフォンを使用して通話をしている。


『そうかニア、楽しんで。』


通話の相手は父親だった。ニアはご機嫌な足取りで通話を切って十数歩先を歩く友人を追いかけようとした。


【ドグシャッッ!!】


突然何かが潰れたような音と共に、目の前が真っ赤な霧に染まる。何が起きたのかニアは理解ができなかった。ほんの一瞬でさっきまで笑っていた友人達が文字通り消えたのだ。大量の赤い霧を被ったものの、彼女は呆然とした。


『おい、ニア!何があった!』


父のスマートフォンごしのその叫びで我に帰ったニアは目の前の光景を理解し、悲鳴をあげようとしたがソレに気付かれたら死ぬと本能が警鐘を鳴らす。そして静かに後退りをし、離れたところで走りはじめ、車に乗り込んでエンジンをつけ、悲鳴が飛び交う街を後にした。そして運転する中通話をしながら叫ぶ。


「お父さん!見たこともない、機械の太いヒモのようなものの塊がみんなを殺した!!」

『何を言っているんだニア!落ち着け!』

「本当よ!一瞬で霧みたいになって消えたの!」

『まずは走って基地へ!』

「も、もうつく!」


ニアはひとまず近くのロシア軍基地に駆け込む。兵士に呼び止められるものの、事情を説明するとまずはシャワーを浴びさせてもらい、新しい服に袖を通すことを許された。そして、来客用の部屋に通されたことでやっと生きた心地を得た。

 彼女の話は話半分で軍関係者は聞いていたが、鳴り響くサイレンと駆け込んできたボロボロの兵士の姿で全てを理解する。


「我々の銃も戦車砲もミサイルも通用しない恐ろしい機械の塊が我が軍を蹂躙し、辛うじて私は生き残ったものの、他の隊員は全滅しました。彼等の死に様はもはや言葉にできません。終焉の日がはじまってしまったのです、きっと・・・!」


そう叫んだ兵士はその場で倒れ、そのまま絶命してしまった。彼の胴体には無数の風穴が開いており、それは致命傷であった。それを見た軍関係者はニアに対してすぐに逃げるようエスコートすると伝え、軍用車で出発する。


「長旅になるが、モスクワを目指す事になるな。」


軍関係者のニコルスキーは運転しながらニアにジョークを飛ばして気を紛らわせようとする。


「でも、みんな死んでしまうのよ。」


震える声で答えるニアを見かねたニコルスキーはウイスキーを彼女に差し出す。


「飲めるか?」


ニアはこくりと頷く。彼女は最悪な21歳の誕生日を乗り越えた。

 それから数日後、調査隊として精鋭の小隊が投入されるも、通信機器の異常が発生したのち音信不通となったため、プーチン大統領はショイグに命じて増員して調査をさせた。調査の最中判明したのは、彼等は無惨な肉塊となって絶命していたこと、そして投入した兵力の7割をロストしたことを踏まえて、調査をした地域から半径百キロを立入禁止区域とし、この事実を闇に葬った。


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 2022年2月、ロシア軍は突如『特別軍事作戦』を開始する。その勢いは凄まじく、世界はウクライナはあと数日で滅びると予想した。しかし、そんな中で諦めない男がいた。彼はゼレンスキーという名を持つ。彼はツイットでキーウにいるという動画を配信し、世界は大きく震える事になる。しかし、そんな彼の耳に噂として気になる情報が入っていた。

 そう、シベリア方面で起きた謎の村人の虐殺事件である。しかし、彼は今はそれどころではない。国を守るために戦わねばならない。


『ウクライナに栄光あれ!!』


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数ヶ月後…

 世界を揺るがす戦いを数ヶ月も常にニュース等さまざまな情報網で見ていた東洋の男がいる。彼は八塚浩平(やづかこうへい)、ロシアで起きた謎を情報部隊から伝えられ、海上幕僚監部より特命を受けて岩国基地にて勤務する男である。しかし彼はどこか風変わりと思われていて、マニアックなアニメキャラクターをこよなく愛する者でもある。そんな彼はホワイトスネーク隊を編成すべく事務所を与えられたのだが、構成員を探すのに苦慮していた。


 「シベリア旅行に行っていた邦人が遺した情報にある、謎の機械のような兵器に対抗する手段を考えてくれ。って言われてもなぁ。いくら俺がコアなアニメファンといっても、そんなアニメみたいなことなんて起きないのにさぁ…。」


 缶コーヒー片手にぼやく。そんな彼の元には、事務仕事を手伝う24歳の小柄な女性の雪城狐白(ゆきじろこはく)と、協力者でもある瞳が岩国特有の白蛇に似た、白銀色のツインテールをした少女の二人しか居ない。ツインテールの少女は二丁拳銃の使い手で、米軍顔負けの射撃能力を持っているのだが、性格に難有りである。ツン系とかいうやつだろうか。あまりにも蛇のようにシャーシャーいうので噛まれないようにしている。そんな彼女の名前は白蛇袖姫(はくじゃゆき)。

 彼女達の手伝いもあり、どうにか未知の脅威と思われている兵器についての資料が山のように積み上げられているが、打開策としては不十分であった。どれもこれも、遅滞戦術が基本であり、結局のところその兵器を撃破できない、つまり勝利することが不可能なのだ。そんな今は紙の上の存在であるそれがもしも日本、しかも岩国に来たらと想像するとぞっとする。


「雪城、そういえば宇部で不審なものが浮かんでいると言っていたな?」


 八塚はふと思い出して話しかける。


「はい、海の上に浮かぶ船がもう3日も動かず補給もせずで、データが正しければそろそろその船の食料が尽きるはずなんです。でも乗り込もうとした人が言うには、見たこともない雰囲気で怖くて近づけないと。」

「そうか、わかった。調査に出よう。白蛇、いけるな?」


八塚は黒色の制服の上着を着込みながら白蛇に話しかけ、共に武器庫に向かう。

 八塚は海上自衛隊で運用しているP9をベースに特殊弾を使用できるように改良した特装P9というハンドガンと研究開発中の試作弾薬60発分を装備し、白蛇は岩国カスタムと呼ばれる、白蛇をイメージしてP9をベースに拡張カスタムされた9発弾倉のホワイトカラーの二丁拳銃を手に取り、八塚と同じく試作弾薬120発を装備する。


「いつもすまないな、ヘリに乗せてもらって。」

「いえいえ、仕事ですから。」


八塚はヘリのパイロットと会話したのち、戦闘に備えた。その時ふと感じたのは、シベリアに現れた人類を凌駕する存在がなぜ日本で確認されないのかという疑問ではあった。しかし時間はそんなことを考えさせる暇はなかった。


「なんだあれは…船の中になんか蠢くものが見える。まさか…報告にあった機械生命体…アニメかよ…」


八塚は驚く。そんな彼をよそに、白蛇はヘリから飛び降りる。パラシュートを展開し、落下傘降下からその巨体ともいうべき客船の人工芝のある場所に降り立つ。そして彼女は拳銃を構えて索敵をしながら生存者を探索する。

 遅れて八塚はヘリからロープによって降下し、彼女の後を追う。と、すぐに血の匂いが八塚の鼻をつく。恐らく生存者は居ないが、アレが居る。そう察知した彼は拳銃を構えてCQBの構えを取る。そして扉を開けるとそこには何故か雪城の写真が収められた写真立てが置いてある客室があった。そこは血の匂いもなく、恐らく生存者が脱出したのかもしれない。とりあえず雪城の写真を懐に入れて八塚は探索を再開する。そんな時、彼の耳に拳銃の乾いた銃声が何発も聞こえてきた。


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「次から次へと何なのよ!このウネウネ、弾は効いているけど数が多い!」


火を吹く岩国カスタムから放たれた弾丸は機械生命体(メカノイド)と呼ばれるその触手のような物体を貫通し、その活動を無効化するものの、無数とも言える数に白蛇はどんどん追い込まれていった。そんな時、高い身体能力をもって戦う白蛇の背後から一筋のそれが勢いよく彼女の背中から心臓を貫かんとした時、白蛇は死を覚悟する。


「(浩平…ごめん…私もう、避けきれない…)」


しかし彼女は違和感を感じる。いつまで経っても覚悟したその感覚が来ない。はっとして空中から地に足がついた時その方向を見ると、巨大な日本刀を振り回す大男が彼女を狙っていたそれを斬り払っていた。


「小娘!無事か!」

「ふ、ふん!…ありがとう。」

「俺はよくわからんがもうここで3日戦っている城守覇鬼(しろもりはき)だ!!やっと生きている奴に出会えて助かった!」

「し、城守さん!?ということは…!」

「ああ、俺以外全員死んでいる!しかしどうやって脱出すべきか、あるいはこいつらを殲滅するかを考えていた!こいつらが日本の土を踏まないようにな!」


そう答えると城守は刀を構え、全身に力を込める。その覇気はまるで鬼そのものであった。

 放たれた一閃で道が切り拓かれると城守と白蛇はその道を駆け抜けて通路へと躍り出た。


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 「嫌な予感はあたるか」


単独行動となっていた八塚も同じくメカノイドとエンカウントし、特装P9による射撃、特式手榴弾及びかつて特別警備隊に所属していた時に得たノウハウを活かした体術を使い分けて凌いでいた。しかし、八塚の懐には手榴弾があとひとつとなり、そして拳銃用のマガジンも最後の一つとなってしまった。そんな時八塚の脇に金持ちか何かが飾っていたであろう古びた槍を発見し、その槍を手に取り肉弾戦を繰り広げる。


「不思議だな。この槍はなぜか俺達ホワイトスネーク小隊専用の武器と同じように、こいつらに効く。」


そう呟きながら、かつて槍術を少しだけかじった経験を活かして次から次へと捌いてゆく。そんな中、インカムに通信がやっと入る。


『こちら雪城、緊急入電あり。防衛大臣の承認を急遽得たため、現在ホワイトスネーク小隊が調査中の船を、10分後到着予定、呉基地所属の自衛艦が艦砲及びミサイル攻撃によって爆破処理を行うとのことです!民間人及び民間船は退避済です!早く退避を!』


通信を受け取った八塚は一言、了解を伝えると早急に白蛇や万が一の生存者を捜索せねばと考える。しかし、その悩みはすぐに解決した。


「っらあああああ!!!・・ん?誰だオッサン。」

「海上自衛隊岩国航空基地所属、ホワイトスネーク小隊隊長、八塚2佐です。あと8分後にこの船は防衛大臣の緊急承認により爆破処理が行われるため、早急に退避をお願いします。」


城守の馬鹿力による蹴りでドアを蹴飛ばした轟音にも怯まずに八塚は淡々と状況を伝える。

そして大柄な城守の後ろから小柄な身体を乗り出し、まるで威嚇する蛇のように白蛇が顔を出す。


「浩平!退避といっても、時間が間に合わないわよ!」

「・・・だろうな。」

「え、それって、私達は自衛隊の艦に砲撃されて死ぬってこと?」


具合が悪そうな蛇のような顔をした白蛇に対し、八塚は答えなかった。そんな中城守は声を発する。


「何諦めてんだよ!道がなきゃ作りゃいいんだよ!そうだろ、八塚のアンちゃんよ!」

城守が指を指すのは、船の壁だった。

「アホは図体だけにしてよね!そんな鋼鉄の壁どうやって・・・」

「こうする」


白蛇が吠えると、城守は刃に精神を集中させると、突如壁にある頑強な開かない窓を斬りつける。


「バカなの!?壁にある頑強な窓叩いて頭おかしくなったんじゃないの!?」


白蛇が城守を小馬鹿にした瞬間、城守は八塚から手榴弾を受け取り、その後怪力で作ったわずかな隙間にうまく挟み込む。そして三人は一度物陰に隠れ、手榴弾が爆発したあとできた穴を見て叫ぶ。


「特注品だったからか威力が強いな。ほら、この穴ならギリギリ人が出られる。」

「ほんと馬鹿力ね。」


白蛇はそう呟くと窓から外に飛び出し、海へと飛び降りた。


三人はすぐに駆けつけたゴムボートに回収され、全速力で離れる。しばらく離れ、安全距離になった頃、さっきまでいた船は文字通り蜂の巣となり轟沈していった。

 寒い9月の終わり頃の海風に晒された体をしばらく温めながら彼らは基地へと帰投してゆく。そんな時だった。雪城からの悲痛な報告を受けたのは---


----


その頃、岩国の市街地では異変が起きていた。

戦闘員ではないが雪城も出動し、駅前に出現したメカノイドを前に無力を感じつつも人々を退避させていた。そのメカノイドは住民を何人か屠ったうえ、駆けつけた米軍兵士も善戦はするものの、既に数名が犠牲となっていた。


「隊長達が帰ってくるのにあと2、3時間もかかるのに、まさかこの街に来るなんて…!」

雪城は後悔していた。元々メカノイドと呼ばれる脅威に対して戦える人間が少ないのに、全員派出してしまったことで本拠を守れなくしてしまったことに。


「だめ・・・犠牲者が増えて・・・誰か・・・助けて・・・!」


雪城の悲痛な叫びは、通信を通して八塚にも届き、八塚は機械越しに悔しがっているのを感じた。そして、雪城の脳裏に自らの死がよぎった

瞬間、目の前の空間が歪み、自分の脚に力が入らなくなる。

 しかし、目の前の歪みから大きな翼を持ち、まるで龍の尾のような尻を持つ黒色基調のコートを着た女性が現れたと思った刹那、その女性は左手で握っていた大きな剣のような、銃のようなものを一振り振るう。

 と、同時に目の前のメカノイドの塊は両断され、機能を停止した。


「貴女は・・・!」

「・・・。」


雪城の問いかけに彼女は一言も返さず、そのまま勢いよく前へと踏み込む。彼女が通った軌道の周囲に居たメカノイドの群がバラバラに斬り裂かれていく。そんな彼女の目の前には今にも摘み取られそうなか弱い少女がいた。

翼を持つ女性はその獲物のスイッチを入れるとそのトリガーを引き、砲撃のような銃声が鳴り響く。その時雪城は叫びかけたが、目の前の光景を見て声を失った。その女性は翼で少女を抱擁し、その翼の裏側ではメカノイドのコアらしきものが、砲撃による振動で震える刃によって完全に破壊されていた。


「嘘・・・人類では勝てないと言われていたアレを・・・倒し・・・た?」


唖然とする雪城の事など気にせず、その女性は少女を安全な場所へと逃し、その回転式弾倉の中に残っていた薬莢を一気に排出し、慣れた手つきでリロードする。


「この惨状は、あの者によるものか?」


間が悪いのか、米軍兵士がその翼を持つ女性を囲む。彼女を拘束しようと筋骨隆々とした米軍兵士が格闘戦を仕掛けるが、片手で彼女に投げ飛ばされ、空中で嘘だろと叫ぶ。そんな中、思ったよりも早く八塚達が帰ってきてしまった。


「雪城!これは一体!」

「わかりません。ですが、あの翼を持つ女性はどうやらメカノイドを敵と認識していて、信じられませんが、さきほど真正面からメカノイド群を撃破しました。」

「なるほど。彼女をどうやって説得するか、か。言葉が通じるのかも不明。ならば。」


八塚は、海での戦いで手にした槍の持ち主が実は城守のもので、本人から譲渡してもらったばかりではあるものの、妙に手に馴染む槍を構え、ガンソードのように見える武器を持つ謎の女性へと立ち向かっていく。


「私の名は八塚浩平だ。君の名は?」

「・・・。」


お互いの刃が何度も交差し、そして刃が噛み合う中、至近距離で八塚が問いかけるも無言のままであった。その瞳は黄金色に輝く瞳と沖縄の海を想像させるような綺麗な青色の瞳のオッドアイで、よく見ると獣耳のようなものもあり、艶のある黒髪のロングヘアである。と、彼女は突然口を開き


「名前など忘れた。この地に来た時には。」


と、想像しなかった少し高めの、男性かと思うような声が聞こえた。


「だが、叢雲という龍神様の名だけはわかる。私自身ではないが。」


と、続くので、咄嗟に八塚は彼女からまるで瀧を登って龍となる逸話を連想させられるほどの瀧の薫りと、叢雲という名から一字とって叫んだ。


「瀧叢りゅう!名前を忘れたのなら、そう名乗ってくれ!」

「八塚・・・!」


名を急に与えられた瀧叢は、目を点にして武器を地面に落としてしまった。


「その者を拘束させてもいます。八塚様」


米軍憲兵が瀧叢を拘束しようとしたとき、彼女は覚悟を決めたような表情をする。


「待ってください。彼女は、この八塚浩平、ホワイトスネーク小隊で預かります。」


八塚は彼女を拘束することに対して反対しつつも彼女をチームに引き入れようとした。


「ですが、ミスター八塚、彼女は我々に対して徒手ではあるが攻撃していますし、それに素性がわかりません。」


憲兵に反論されるも、八塚は答える。


「彼女が武器を使ったのはメカノイドと、先に武器を取った私に対してのみだろう。それに、危機にあった少女を救い、何より我が隊の隊員を護った命の恩人である。そんな恩人に対して縄をかけるのは失礼にあたると思う。むしろ、我々人類側にとって彼女の存在はメカノイドによって苦境に立つ現状を覆す反撃の嚆矢のように感じている。故に、私は彼女を臨時で小隊員として迎え入れたい。」


しばらく憲兵は考えたが、確かに彼女は投げ飛ばした米軍兵士はいれども、誰ひとりとして大きな怪我を負わせたりはしていなかったため、経過観察という条件付きでなんとかできないか確認をしてみるという話に落ち着く。

 それからほどなくして彼女は岩国基地へ八塚のエスコートで通され、事務所に小隊員が全員帰還する。


「やーづーかー!このバカデカい剣重すぎなんだけど!」


白蛇が両手で抱えようとしてぷるぷると震えるだけで持ち上げられなかったらしく、瀧叢のガンソードは相当な重さがあるらしい。


「見たところ四十から五十キロはあるな。何で出来ているんだ?」


八塚が白蛇から取り上げると呟く。


「あのゴツい米軍兵士は片腕で投げ飛ばすし、この剣は左手で小枝のように扱うし、その腕でどうやっているんだ本当に。これも龍神の力というやつか?」


椅子に座り、机の上に出された紅茶に映った自分の顔を覗き込む瀧叢に対して問いかけるが、瀧叢は静かなままだった。

 そんな彼女の胸元にキラリと翡翠色に輝く宝玉と、光を失っている紫色の宝玉が嵌め込まれたペンダントが見える。


「もしかして、このペンダントは。」

「それは・・・叢雲様がくれた・・・私のギア。」

「ギアか・・・まさか、これがあの力の源だと?」

「・・・願いの強さで、力も強くなると聞いた。あとはよくわからない。」


なるほどと感じた八塚は、そのペンダントに宿る力がわかればあの忌々しい軍勢に対抗できると理解した。


「ところで、君が特にその力を手に入れたときの願いはなんだったか覚えているか?」

「・・・分からない。思い返しても、まるで風のように掴みどころがなくて。でも、自由なことは大事かなと思う。」

「自由・・・風・・・なるほど。何か、属性のようなものがあるんだな。そのペンダントには。」


そして八塚は思い返す。そういえば、白蛇も多少は対抗できて、かつ海色のペンダントを持っているのだが、可能性はあるのかもしれないと。


「わかった、ありがとう。ところで瀧叢はどんなものを食べていたんだ?」

「・・・。」

「まぁ、この呉のがんすを乗せてあるとはいえ、うどんすら知らないとなると相当な粗食だったんだろうなとは思うが。」


目の前で同じものを食べてみせると、瀧叢も真似をして食べてはくれた。この子の生きてきた幼少期が気になって仕方ないが、先の市街地戦の英雄を粗末に扱うわけにはいけない。


「ところで突然雪城の目の前に現れたと聞いているが、君からは何が見えていた?」

「・・・穏やかな平原の中を、ただひとりで、歩いていた。気がつけば目の前にこの武器が現れて、手にしたらあの街に。」

「なるほど、ならなぜメカノイドが敵だと認識したんだい?」

「・・・叢雲様が人間は大切な存在だと教えてくれたから、その人間に危害を加えるあの存在が敵に見えた。それだけ。」

「なるほど。君自身はなんだか空っぽな器のような存在で、その器の中に叢雲様という龍神様が宿っている風に感じるね。」


そして八塚がテレビをつけると、ニュースの特番で『謎の有翼少女』についての報道が行われていた。


「しかし、その叢雲様とやらの教えのおかげか、この街では君への評価はいいようだな。」


八塚がそのニュースを見ていると、偶然瀧叢が武器を手にメカノイドの群へと斬り込む様子をスマートフォンによる撮影をした映像が流れ、丁度小さな少女を護っているところだった。

 そして報道へのSNSからの寄稿コメントでは、『コスプレ?』という言葉が流れるものの、『いや、岩国だから米軍か海上自衛隊じゃないか?』等の声もあった。その中で『これは岩国の白蛇様では?』『いや、どこかの龍神様じゃないか?白蛇のしっぽは黒くないでしょ。』と、瀧叢は何者なのかという憶測が飛び交った。


「街に外出したら、確実に追われるな。」


八塚は瀧叢の非常に目立つ大きな翼を見ながら一言言い、カレンダーに目をやると二千二十二年九月二十八日を指していた。



続く。

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