らぶこめ陰謀論
くにすらのに
第1話 真実
Z
140文字で真実を伝える素晴らしいSNSだ。少し前まで平和ボケした青い鳥がアイコンになっていたが企業のトップが変わり黒地に白でZというとてもスタイリッシュなデザインに一新された。
以前に比べて使いにくいと感じる面はある。頻繁にエラーが発生するし、課金しなければ様々な機能が制限される。140という限られた文字数で情報をまとめるところに趣を感じていたのに課金ユーザーは文字数制限がないんだからもうめちゃくちゃだ。
しかし、俺はZを使い続けている。なぜか。それは、ここに真実があるからだ。
大企業に屈することなく無課金で真実を伝え続ける人が世界中にいる。ほとんどの人間がそれに気付かずのうのうと生きる中、俺は真実を知ってしまった。
誕生日に買ってもらったゲーミングチェアのリクライニングを倒し天井を仰ぐ。少しくすんだクリーム色は世界の闇を知った俺の心みたいだ。純粋だったあの頃の自分はもういない。
しかし、暗黒に染まったわけでもない。真実が俺をオトナにした。それだけのことだ。
「くくく、やはりここには真実がある」
自室で一人の時にだけ漏らす笑い声。真実を知ったとしてもそれを周りに言いふらすようなマネはしない。消される可能性があるからだ。喜びを表現しつつも決して大きな声は出さない。俺はこの笑い方がとても気に入っている。
「宇宙評議会は俺達の日常に溶け込んでいる。もし知らなければ俺も籠絡されていた。やはりZは素晴らしい」
―宇宙評議会はすでに先進各国の政府を掌握している。首脳は彼らの言いなり。我々国民の生活を追い込む政策ばかり進めるので宇宙人にこの星を明け渡すため #宇宙評議会 ―
―評議会はすでに多くのスパイを送り込んでいる。特に若者を籠絡するために学生に扮していることが多い。このポストを見ている若者諸君、なぜか妙に優しい女には気を付けろ! #宇宙評議会 ―
―私も若い頃、優しくしてくれた女子に思い切って告白したことがある。恋愛対象としては見られないけどこれからも友達でいてほしいと断れた。彼女のためにどれだけバイト代を使ったことか……今思えばあの女も評議会のスパイだった。 #宇宙評議会 ―
クラスメイトはおじさん達のポストをバカにしているがこの #宇宙評議会 のハッシュタグを付けているポストは有益情報ばかりだ。このハッシュタグを付けて投稿していれば同志だとわかるし、すぐに宇宙評議会の最新情報を入手できる。同志全員と相互フォローの関係になるのは難しいので基本的には特定の誰かに返事を書くのではなく、情報を全体に共有するためにハッシュタグを付けて各々の質問に回答したりスパイから受けた被害報告に慰めの言葉を贈っている。
日々投稿されるスパイの被害報告。この情報に俺も思い当たる節がある。
一条きらら。誰にでも優しく常に笑顔を振りまいている怪しい女だ。成績が良く運動神経も抜群だからなおのこと怪しい。宇宙評議会のスパイとして手近なクラスメイトから籠絡しようとしているのは間違いないことだ。
この前も男子の何人かがあの女に告白するだのしないだの騒いでいた。もしあの女の彼氏にでもなったら宇宙評議会に全財産を……いや、人生を全て吸われ尽くされてしまう。
男子だけではなく女子までもがあの女に魅了されているからタチが悪い。男子に媚びる女子は嫌われるものだと相場が決まっているし、本人がいないところで陰口を叩くのが女子というものだ。
俺の存在に気付かず延々と誰かの悪口を言い続けているのはよくある光景だ。しかし、一条きららの悪口だけは一度も耳にしたことがない。さっきまで他の女子の悪口で盛り上がっていたと思えば、いつの間にか一条きららを褒め称える会に変わっていた。
俺のクラスはもうダメだ。宇宙評議会に侵略されている。だからこそ、俺は真実を知った上で何も知らないふりをしなければならない。
幸いなことに一条きららの魅力を語り合うような友人はいないし、常に一人で過ごすことで自分の身を守っている。
―これからはモテないことがステータスになる。俺は地球人として人生を全うする。宇宙評議会には屈しない。 #宇宙評議会 ―
―30代の頃は婚活にハマってた。でもある日、真実に気付いた。私は選ばれなかったんじゃない。私が宇宙人を選ばなかった。うっかり結婚してたら大変なことになってた。 #宇宙評議会 ―
「なるほど。モテないことがステータス。マッチングアプリや婚活も宇宙評議会の罠かもしれないな。知れて良かった」
スマホの充電がなくなりそうなのでケーブルを繋いだ。コンセントからスマホの情報を抜き取られないように対策も完璧だ。まさかホコリが入らないようにするアタッチメントにハッキングを防止する効果まであるとは。
火事と情報漏洩を防ぐ神のアイテムとして電気街で奮発して買ったかいがある。宇宙評議会の陰謀に抗う人は世界各国にいる。あの外国人もきっとそうだ。カタコトの日本語で俺にオススメする姿には感動すら覚えた。
お年玉はほとんどなくなってしまったが背に腹は代えられない。未来への投資みたいなものだ。
「さて、今夜もいきますか」
バトルロイヤルゲームのアプリを起動してリクライニングを戻す。戦いは常に真剣に挑む。格下相手にも油断することなく隙を見せない。クラスメイトを籠絡する一条きららに対する心構えをゲームを通じて鍛えているのだ。
「俺は一人じゃない……」
ネットを通せばたくさんの同志がいる。ランダムマッチで一緒に戦う仲間もすぐに見つかる。俺は真実に気付いた賢い者なだけ。
自分に言い聞かせるようにゲーム没頭して、いつの間にか朝になっていた。
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