第8話 初バトル!異能力者との闘い(後編③:終局)
(……不思議ですわ、なんであんなにズバズバと危ない牌を切りに行きながら、危険牌はぴたりと止められますの?)
師と仰ぐ《龍使い》ロナルドの牌捌きを後ろで眺めながら、リンシヤは学びを深めていた。
例えばあの相手の捨て牌様相で、少なくともリンシヤはまだ何が危険かなどを判断できる水準にいない。
ドラ表示牌:87
対面モブ①の
白白白 789 ???????
九1西⑥一一北45六發
上家ピープスの
五五五r五 ④⑤⑥ ???????
南東九四①西八六二①⑦1 ⑤←今捨てられた牌
下家モブ②の
?????????????(副露なし)
北發一二白東⑤三④②
ロナルドの
七八②②②④④⑥⑦2346
(上家が……萬子の五萬を
ピープスの今捨てられた⑤筒子をチーして打6索にとれば
しかし6索が上家のピープスに通っていない。
なぜ打たないのかをもう少ししっかり考えて、リンシヤは気づいた。
(……ピープスは見るからに
なるほど、ゆっくり考えたら普通に読める手である。赤ドラの赤五萬含みで
④⑦筒子を切って
――実際に待ちは36索であった。
今のはなんとなくリンシヤも読めた待ちだったが――全然わかっていない人が見たら、ビタ止めのように見えるのかもしれない。
■東3局終了時点:
モブ① :16000→17000
ピープス:29000→30000
ロナルド:31000→28000
モブ② :24000→25000
◇◇◇
南入しても、ピープスはあの優男、ロナルドを捉えきることができなかった。
(……。何故だ……。俺とあいつ、別にさほど手作りに差があるとは思えねえ……だというのにあいつは、俺の後手に回っても、かわしながら追いついてきやがる……!)
手作りの上手さにさほど差があるとは思えない。
だが、鳴いたらあっさり染め手が出来上がっていたり、ひと鳴き軽く入れたら鳴き一通や鳴き三色が出来ていて1000点で軽く蹴られたりと、とにかく鳴きの判断が鋭敏である。
これは、どちらかというと面前派であるピープスにはない強みである。
(俺のほうが、裏ドラを見て立ち回りを決められるという情報量の差があるってのに……!)
もしかしたら、手作りそのものさえもあちらのほうが上手いのかもしれない。
河に迷彩を施しているわけではない。むしろ手なり手なりの普通の手作り。リーチされても別に怖くはない。手を壊してもいいなら、河を素直に読んで、筋を追って安牌を切ればいいだけ。
――だがとにかく速い。
裏目が少なく打点がそれなりに高い。そして良形率も高く、回っているうちにツモって点をさらっていく。
(……っざ、けんじゃねえ……っ!)
ピープスは歯噛みした。
どうしてあんなに強いのかわからない。
否。
強さの理由が全然わからない。
変なことをしているわけではなく、簡単そうに手を作って、簡単そうにそれを和了っているだけのようにみえる。
そしてこちらの手には全然振り込んでこない。リーチしても副露しても、どちらも全然振ってくれない。
とにかくオリ判断もあっさりしているのだ。回るにしてもオリるにしてももう少し悔しそうにしないのか――と思うぐらいに、淡々と手を崩して組み替える。
そして、危険な場所を絞って再度張り直してきたりする。
(何だ、この、どこから崩せばいいのかわからねえ感覚は……!)
それでも。
ピープスは最後の気炎を吐いて手を作る。
ドラ:3索 裏ドラ:七萬
r⑤⑥⑧⑨七八九789白白白 ツモ⑦
(……張った、リーチ三色赤1役1裏1のチャンス手)
■南三局時点
モブ① :14200
ピープス:22100
ロナルド:46600
モブ② :16100
※供託1000点
供託が手に入るものと仮定すれば、差は23500点。
今は優男ロナルドが親番。これを跳満でツモれば、差を18000点分詰めることができる。跳満直撃なら逆転である。
だが、問題は何を切ってリーチするかである。
赤⑤筒を切ってリーチすると、赤1を失う上、⑨筒では三色が崩れてしまう。
⑥筒を切ってリーチすると、⑤筒待ちという出上がり期待かほぼ望めない待ちになる。
白を切ってリーチすると、役1を失う。
かと言って黙聴ではリーチ裏1がなくなる。
(ここは、満貫直撃でもよしとして白切りリーチが正着……!)
とうとう天下分け目の大一番。ピープスは静かに「……リーチだ」と宣言した。
リーチ、三色、赤1、裏1。
満貫直撃なら16000点分差が縮まる。それでも満貫条件範囲内で、十分及第点と言える。
ツモれば跳満でこれも18000点分差が縮まる。23500点差を覆す大きな一歩。
これを、変な⑤筒待ちや⑥筒待ちに取るほうが機会損失なのだ。
しかし、である。
(……ちっ、これも振り込まねえしツモらねえのかよ……!)
ここまでやってなお。
優男は全く振込もしないし、かといってベタオリもしない。
またもやかわしながらじわりじわりと手を進めていく――。
(――あ)
やがて、ピープスは自分の誤りに気付いてしまった。
――ツモ西。
(この手はリーチじゃねえ、打⑥筒で黙聴じゃねえかよ……!)
そう。
ドラ:3索 裏ドラ:七萬
r⑤⑥⑦⑧⑨七八九789白白白
この場合の正着は、打⑥筒の仮聴取りなのである。
黙聴でも三色ドラ1役1の満貫。ぽろっとこぼれたらロン和了してもよい。
ここに字牌を引いてリーチするのが最強なのだ。そうすればチャンタがつく。
例えば、
⑦⑧⑨七八九789白白白西
リーチ、三色、役1、裏1、チャンタは跳満。
相手の優男はとにかく読みも鋭い。であれば両面待ちの③⑥筒で直撃よりも、字牌待ち直撃の可能性にかけるほうがまだ望みがある。
しかもツモれば倍満で文句なし。
(――――――っ)
実力で劣っているなどと、認められるはずがない。
裏ドラをきちんと確認して、裏ドラがつくことも計算に含めた。
この半荘で負けたとして、それは己の失敗によるもの――。
少なくともピープスはそう信じている。
逆転手をもらいながら、それを活かせなかったピープスは、しばし強い後悔を味わっていた。
だが――。
「ロン。1500点」
ただのピンフのみ手であっさりと一蹴される。
誰でもできるような、大したことのない普通のピンフ。
ピープスの逆転手を潰したのは、取り立てて何も変わったところのない、ごく普通のありふれた手であった。
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