転移魔法しか使えません。

@croud

第1話 双子は間違えられやすい

ガチャ!玄関のカギを開け中に入り 手探りで電気をつける。


時計を見ると 9時12分 しまった! 


ネトゲのレイドボス戦の時間に間に合わなかった。


近所のコンビニには 行きすぎているので 少し遠いコンビニに行ってしまった。


普通に帰れば 5凹はできたのに。


まあいいか そこまで入れ込んでいるわけでもないし。


俺の名前は 宮原信一 独身 彼女無し  一人暮らしの42歳だ


帰ってからやることは YouTubeとネトゲか プライムビデオでアニメや


映画を見ることだけだ。 ただ、それが一番楽しい。 


休みの日は 溜まったアニメを見るか 映画を見たりする。




職場は近所の電子部品の製造工場だ。


複雑な部品ではなく プラスチックと合わせたコネクタだの 小さな部品を作っている。


機械から出てきた完成品をチェックし いくつかは検査をして カゴに入れ


次の日の納品に備える。 


退屈な作業だが 重いものを運ばなくて済むのが 1番いい点だ。


そつなく働き 年金がもらえるまで過ごせれば それでいい


1DKのアパートに 7年住んでいるが 隣に綺麗なお姉さんが越してきたことはない・・・




7年前までは中堅の商社で働いていた。


同期で1番早く課長になった リア充だった。


少し得意になった気持ちが いけなかったのかもしれない


付き合いの長い 飲料メーカーの課長から 新しいオレンジ飲料を作る相談を受けた。


課長はいい人で 俺と話題も合い 楽しい人だった。


偶然 うちの会社でオレンジが安く動かせる情報が入ったばかりだったので


普通より10%くらい安い価格での納品が決まった。


ついている。話が流れるように決まってしまった。


取引額が大きかったので  上司たちからも褒められ 部下たちも感心していた。


契約書に署名をもらう 2日前に電話が入った。  嫌な予感が走った。


契約キャンセルの電話だった。


即座にリカバリーに走ったが ダメだった。 


中国の商社が 俺の提示価格の14%下を提示していた。


投げ売りか? 同じ価格を提示しても 利益が出なければ 話にならない。 


会社での評価が 一変した。 なにか腫れ物を扱うようになり


上司も部下も よそよそしくなった。 まあ 触れずらいよな。


いままでも失敗はあったが 今回は立ち直れなかった。


会社に彼女がいたのだが キャンセルを食らった日は 女子会で出かけていた。


2日後に 女子会でなく合コンだとわかり ケンカをして別れた。


普段だったら 人数合わせなんて 十分に理解できるのだが・・・


1週間後に 俺は会社を辞めた。


それからは今の工場に移り やりがいなど求めず 暮らしている。




俺には双子の兄がいる。


兄貴は結婚していて 二人の子供もいる。


6歳の翔太と 4歳のひまりだ。


二人は双子の俺と兄貴を 間違えたことは一回もない。


翔太に 「暗くて地味 すぐわかるよ。」 と言われた。


あぁそうかい、そうだろうよ・・


双子だが頼りがいのある兄貴で 俺が会社を辞めた後は


毎週 夕食に呼んでくれて 人間関係の温かみをあたえてくれた。


そんな兄貴が今、入院している。


終業まじかの時間に 突然、胸に痛みが走り 心臓が痙攣したらしい。


会社から救急車で搬送され 今の病院にそのまま入院している。


精密検査をしてみたが 血栓などの異常もなく 原因は特定されていない。


心臓が衰弱してるとの検査結果だった。


回復を待ち 異常がなければ3~4日後には退院できるらしい。




見舞いに行くと 非常に元気だ。


「入院にうんざりだ こっそり交代してみるか?」 など 双子のよくある冗談を言っている。


小一時間話して そろそろ行くわ、とゴミをまとめて ゴミ箱に捨てに行き


戻ってみると 兄貴の容体が急変していた。


苦しそうに胸を押さえ苦しんでいる。


「大丈夫か!」 と声をかけ急いでナースコールのボタンを押した。


心電図のモニターが 急ピッチでピッ!ピッ!ピッ!と鳴っていると思ったら


急にピッチダウンして ピッ!・・ ピッ!・・・・ ピッ! ・・・・・


ピーーーーーー-- 


心臓が停止した。 まさかっ、 


「あにきー-!」  大きな声で叫んだ俺の目の前が急に暗くなった・・・・






普段の朝のように だるさとともに 俺は目を開けた。


血色のよさそうな 老人が こちらを向き 立っていた。


白いローブを着て 先の丸まった木の杖をもってる。


この場所に覚えはないが 普通の場所ではないのは確かだ。


「神様ですか?」 俺は老人に聞いてみる。


「そうじゃ。」 と老人 いや神様はうなずく。


思考が追い付かないが 死後の世界なんだろう?


確認のために 聞いてみる 「俺は死んだのですか?」


「ああ 少し前に 死亡した。」




思い出した! さっきまでの兄貴の病室の出来事を


「兄が 目の前で死んでしまったことを思い出しましたが 


俺も同時に 死んでしまったのですか?」 神様に聞いてみる。


「いやぁ おぬしの兄は健在じゃ。 元気にしとる。」 なにか言いずらそうな・・




「俺の目の前で 兄の心臓が止まって ピーーーーッて 鳴ってましたが


死んだのは 俺なのですね?」 少し混乱している。 説明が欲しい。


「はっきり言おう。 間違えてしまった。 手違いだ・・」 神様が頭を下げる。




「そんなこと あるんですか?」 心底、驚いた。


神様はうなずき 「極たまにだが ある。 今回は双子が原因で


触れ合っておったので 微妙に間違えた。」 と言う。


「なるほど・・・ それで 死んでしまうとは・・」 しょうがないのか?


神様は 「折り重なって死んでいる お前たちを見て とっさに思いついた


心臓を交換すれば 兄は生きていられるじゃろうと。」 続けて神様は


「案の定 おぬしの兄は 丈夫な心臓を得て 元気に生き返った。」




改めて考える。 死んでしまったのか・・


悲しいかな、兄貴が死ぬよりは 俺のほうが 周りは困らないか。


俺のおかげというか おれの心臓のおかげで 兄貴が助かったんだ。


考えていると 神様が 


「そなたには少し申し訳ないので 新たな人生を与えるつもりじゃ


次は生涯をまっとうさせてやろう。」 と言ってくれるが


俺は 「赤ちゃんから 生まれ変わるのですか?」 と聞く。


神様は うなずく。


うーん・・ なんかあまり気が進まないな。


というか 何も覚えていないんじゃ ありがたみも何もない。


「どうせならば 天国に行けたりしたら 嬉しいのですが・・」 と俺が聞くと


神様は 「人間の考える 天国などは無い。 ただ平和に存在するだけの世界など


は無い。 努力をして成長を願う者や 別のところに旅をしたい者には 住めぬ場所だ。」


なるほど 天国が無いことは 理解した。




「では 現世とは違う異世界はありますか?」 俺はためしに 聞いてみる


「神様ならわかりますかね。 あの、物語にある 異世界転生みたいな・・・ 」


もちろん聞くのは 恥ずかしさがある。 が、ここは聞いておこう


神様は言う 「神だからおぬしの思い描いていることは 伝わってしまうが


おぬし あれをやりたいのか?」 冷ややかな目で俺を見る。


「今の世界よりは 夢があって 楽しそうなので・・」 と気持ちを伝える。


現世には 生まれ変わる魅力がないんだよな・・




神様は 「まあ わしにしたら どこの世界でやり直そうと同じことなんで 


願うのであれば かなえてやろう。」 と微笑む。


自分から 言っておいてなんだが・・ 有るんだ!


「是非 お願いします。」 と俺は頭を下げる。


「うむ、おぬしに対する償いなのだから 要望は聞き入れよう


要するに 今の知識を持ったまま 前世で言う14世紀くらいに生まれ変わり


他の人々は持たない 特殊な能力を持ちたいと。」 神様は要約する。


「はい、そんな感じで お願いします。」 俺は二つ返事で答える。




神様は思案気に 「肝心の特殊能力じゃが 転移の魔法を授けよう。


物を移動したり 自分が移動できたり便利じゃからのう。」


なるほど転移魔法か。 戦ったりは出来ないのかな?


「あのう 便利そうで ありがたいのですが それだけですか?


もう少し 魔物を倒したりできそうな 火の魔法とか 水の魔法みたいなものは・・」


ちょっと思っていたのと 違う気がするので 一応、聞いてみた。


神様が言う 「すべての者が 魔法や特殊能力を持った世界もあったが


すぐに滅亡した。 その世界の暮らしも 悲惨なものじゃった。」 続けて神様は 


「皆が 兵器を持つようなものじゃから 当然、悪い者ほど よく使う。


治安が保てず 無意味に死ぬものが 多数じゃった。」


なるほど そんな世界は困る。 


俺は言う 「わかりました。転移魔法でお願いします。」


神様は 「ちなみにレベルとかもないからな 修練すれば鍛えられるがな。


レベル表示とか もちろんステータスウィンドウなども無い 非現実的だしな。」


神様に言われても・・・




「後の条件は わしが決めてやろう。


転生する年齢は そうじゃな 14~15歳くらいがよかろう


その中年男の思考で おっぱい飲むのも難しかろう おぞましい話じゃ。」


ちょっと納得してしまう。


神様は続けて 「新しい世界では おぬしに親はいない。不憫なので


わしが名付け親になってやろう おぬしの名前は アデルじゃ


きっと神の恩恵が得られるじゃろう。」


神様が名付け親か ありがたい気がする。


でも 考えてみたら新しい世界では 天涯孤独か


友達や仲間が1人もできなかったら 悲しい。


神様が 「新しい人生は 自分で切り開くのじゃ 仲間を作り


困難を乗り越え 成功を分かち合うのが 人生じゃ。


わしはこれで去る 後は自力で頑張れ。」


神様は消えていった。


こうして 宮原信一改め アデルは新世界へと旅立つのであった。


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