第3話 中隔壁 北塔
城壁の上から見た
外海を遮断していた鉄鎖を破られ レムリアの《
埠頭には《
だが
あれでは 持ち味の速力が生かせない。
そして 眼下に広がる街路には
勝者による略奪が始まっているのだ。
呆然と立ち尽くす エリス。
だが ユイハが 声を掛けるよりも早く 頭を数度 大きく振ると 城壁上の守備兵達をまとめ 撤退戦の準備を始める。
エリスの前を見る力に ユイハは
《
通常であれば 政略結婚の手駒として
だが 幼い頃から
その実績を基に オリゾンテ商会に《
どんな困難も 自分の意思で 切り抜ける自立した女性。
自分とは なんと違うことか……。
ユイハは 思う。
家柄。
血筋。
作法。
サムライの掟。
女としての勤め。
ありとあらゆる
それに引き比べて ことある
好きなように怒り 大声を上げて笑い 不満があれば
そして 一瞬 唇を噛んだかと思うと 次の瞬間には 行動を始めている……自分の意思と決断で。
……いや。
もう 自分も自由なのだ。
ユイハは 自分に言い聞かせる。
自分を縛るものなど もう無いのだ。
あとは 自分の意思と決断だけ……。
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残存のネイマール兵達の生存を賭けた脱出戦は
そして 8刻を越える 籠城戦。
戦える仲間は徐々に減っていき 塔内に残ったのは エリスとユイハを含めた13名。
全員 疲労
レムリア兵の攻撃は 現在 止まっているものの 次の総攻撃を耐えきる自信は エリスにさえ 残っていなかった。
包囲側からは 投降の呼び掛けも 幾度か行われた。
だが エリスとユイハは 女の身。
気の立った
万が一 そうならなくても 奴隷として 売り払われるのだ。
展望に大した違いは 無い。
……いや。
自暴自棄になった 味方の
エリスは
兵士は 小さく頷くと 周りの兵士達に 意思を伝えてくれる。
敵の総攻撃までの
エリスはユイハと目を合わせると 視線を階段へと送り 塔の上部の部屋へと
部屋へ入ると エリスは 扉に
ユイハも 隣へ座る。
「今度は また 随分 多いな…」
壁に
「次の総攻撃は 日の出と同時くらいかな?」
エリスが答える。
もしそうだとしたら 残された時間は 1刻ほど。
「あーあ。ホントに願いが叶うのなら 街に帰りたかったな…」
「……願い?」
もう何十 何百合と打ち合い
「この
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1度目のエルディアナ攻防戦が終結した後
あの女サムライの〈カタナ〉と同じかそれ以上の大業物を。
厚い
カタナはサムライの魂と云うらしいが あの女の生き方を表すような見事な大業物〈銘:
折れず 曲がらず ただ
あれ程の得物を手に入れることができれば 2度と あの女に遅れをとることなど無い
自分の敗北を否定するように 小さく首を振り エリスは
低く
その店は 細い路地の奥に
異国の文字で【七つの海
ひんやりとした空気の漂う小ぢんまりとした店内には 黒ずくめのローブを着た老婆が1人。
……いや。
老婆に見えたのは 見間違いだったろうか 音もなく立ち上がる黒髪を結った妙齢の女性。
「何か お探しかしら? 剣士様」
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「その店主が言うにはさ 持ち主が本当に願ったことが 叶うんだってさ。……でも あたしの本当の願いって 何なんだろ? 今となっては それもわかんないや」
「私は 桜が見たい……」
呟くように ユイハが漏らす。
「……サクラ?」
「そう。桜だ。これくらいの時期になると
目を伏せた 端正な横顔に
「ユイハ。アンタは あたしが 必ず送り届ける」
「……ありがとう エリス。でも いいんだ。私が帰れば 国が乱れる。忘れてくれ。それより
エリスの望み。
この
それは 自身の切なる願い。
そして 交易を
エリスが
「……さっきの話なんだけど あたしはアンタを 必ず 桜の見える国に送り届ける。何があっても。命尽き果てても 生まれ変わってでも…」
決意を込め
その決意に応えるように 刀身が陽光を受け
「ああ。私も気が変わった。貴女の街が見てみたい。例えどんなことが あってもだ…」
ユイハは 鍔を鞘に当てて
朱鞘が
そして 2人は 視線を交わすと 生き延びるため ゆっくりと扉へ歩み始めたのだった……。
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