黄金の脛(おうごんのすね)

@k0905f0905

第1話

「アジタ、また書類ミスったな」

 係長のクエシマだ。

 いけすかない野郎だ。

 細かい細かいミスばかり、あてつけのように

指摘してくる。

 自分のことがよほど嫌いなんだろうと

アジタは思っていた。

 アジタがこの世から消えてくれれば

いいと願っているのかもしれない。

 本当に腹の立つやつだ。

「アジタ、おまえモテないんだろうな。

仕事もできないうえに、彼女もできないんじゃ

生きてても仕方がないだろう。これで首を吊れよ」

ご丁寧にクエシマがどこから用意してきたのか

ロープを差し出した。

「あっ、いっ、いえ」

アジタがしどろもどろになる。

「ボッ、ボクは」

「やれよ、アジタいい見世物だぜ」

同僚も一斉にはやし立てた。

「命が惜しいんで」

アジタが蚊のなくような声を出した。

「へーっ、そんな命でも惜しいんだ」

「ハイ」

どっと笑い声が起こった。

「おい、アジタ、残りの仕事、

みんなのぶんも全部やっとけ」

クエシマが命令した。

「でっ、でも」

「デモもストライキもない」

クエシマが一喝した。

「はっ、はいわかりました」

また、みんなの笑い声。

部屋にはアジタだけが残された。


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