【限定公開】なのはな高校の青春事情

沿海いさで

第0話 平池彩華

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本編はこの第0話の次話からです。

ここは流してください。

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 その声を聞いた瞬間、得も言われぬ感覚に襲われた。


「――わたしは平池ひらいけ彩華あやかです」


 心臓が高鳴った。

 不思議な声だった。

 そこまで大きな声でないのに、心の奥底へ溶け込んでいくような。

 全てを包み込むような優しさが溢れた声で、心をつかむような声だった。


 透き通る白い肌に、芯のしっかりした声に、長くさらさらとした髪に、僅かに浮かべた笑顔に、あっさりと心は奪われた。

 目の前に座っている彼女が、見ている世界から色と時間という概念を奪った。全ての音が遠ざかり、彼女以外が白く染め上げられた。


「……………………」


 声が出なかった。心臓の鼓動は跳ね上がり、呼吸は苦しく、座っているのも覚束なくなり、自分がどこにいるのかさえも、この時は忘れてしまっていた。


 彼女だけを見ていた。その肌の白さに、その唇の透けるような薄さに、病人みたいに輪郭が細いけれど美しいその華奢な手に、優しく包み込むような声に、目を離せなかった。この世界から彼女以外の万物が消滅する。そんな錯覚がした。


 初めての感覚に動揺した。ぽっかりと開いた心の穴が、塞がっていくような感覚だ。


 ああ――と。

 この瞬間、将純まさずみは恋に落ちたのだと自覚した。

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