第2話 最悪の転生
「やめて、やめ……ああぁ! 熱い! 痛い!」
男、ルイに
そんな女を見て、せせら笑うルイと、もうひとりの女、カレンがいた。
「あはは、いいザマね!」
「よくも俺たちと無理心中なんかしやがって! お前にはこれから
トールはカレンに頭を踏まれて床に
(どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの!? 地獄に落ちるべきはあいつらなのに!)
顔に
(今に見ていなさいよ、この人生でもあなたたちに復讐してやる!)
果たして、トールはルイとカレンに復讐を果たすことができるのか……?
ここから真の異世界復讐物語は幕を開けるのである。
――神様というものが本当にいるとしたら、よほど私のことが気に食わないらしい。
私は神様の機嫌を損ねるようなことをした覚えはないけれど、もしそうだとしたら、きっと自分の夫と浮気相手を殺したせいだろう。
三人とも偶然ながら――あるいは神様の手違いか、いたずらなのか――前世での記憶を保持したまま異世界に生を受けており、全員が
そして、ルイとカレンはトールが自分たちより身分の低い召使いと知るやいなや、ニヤついた顔をしたのだ。
「トール、お前、俺たちを殺したという罪でそんな虫けらみたいな身分に生まれ変わったんだな」
「フン、まあ当然よね。これからアンタはアタシたちのために
それからは、彼らがトールに対して当てつけのようにいびるようになる、地獄のような毎日が待っていた。
ルイとカレンは
さらに、二人が愛し合ったあとのベッドメイキングまでさせられた。
(なんで私がこんなことをしなきゃならないの?)
トールは内心腹を立てながら、黙ってベッドを直していた。
彼女はたしかに、死ぬ寸前「地獄に落ちても構わない」とは思った。しかし、それはルイとカレンを道連れに地獄に落とせるなら、の話である。こんな不条理なことがまかり通っていいものか。
しかし、この西洋ファンタジー風の異世界では、貴族制度が幅を
貴族に生まれたものは生まれながらにして高貴な身分。対して、低い身分の出身はどんなに優秀な者でも貴族から
そして、トールはそのことがまだ真の意味で理解できていなかった。
「おい、トール。ワインセラーからワインを持って来い。五十年もののやつだ」
「ルイさんとアタシを待たせないでよね」
柔らかいソファにどっかりと身を預けているルイとカレンを。トールは黙って立ったまま無視した。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「なんで私が、あなたたちの言いなりにならなきゃならないのよ。お断り。貴族だかなんだか知らないけど、偉そうに」
「なんですってぇ!?」
カレンは勢いよくソファから立ち上がると、トールの
「トール、お前は教育が足りてないみたいだな。貴族に逆らったらどうなるか、教えてやろうか?」
ルイはトールの体を後ろから羽交い締めにする。
「ちょっと、何よ! 何するつもり!?」
「カレン、罪人には
「ええ、そうね」
カレンは
トールは体中の毛が逆立つような恐怖を覚えた。
「な……何する気……!? や、やめて、やめ、」
カレンはトールの言葉を無視して――いや、笑いながら、焼きごてをトールの顔に押し付けた。
「ああぁ! 熱い! 痛い! いやぁぁぁ!」
トールは激しい苦しみに悶え、泣き叫ぶ。
そんな彼女を見ながら、ルイとカレンはせせら笑っていた。
「あはは、いい気味! 見てよルイ、『熱い! 痛い!』って虫けらがわめいてる!」
「これにこりたら、もう二度と俺たちには逆らうんじゃないぞ、わかったな?」
羽交い締めを解かれても、トールはしばらく顔を押さえてうずくまり、動くことができなかった。
どうして自分が異世界に転生しても二人に
(私は神頼みなんかしないわ。自分のことは自分でけりをつける。あの二人のことだけは、生まれ変わっても許さない!)
トールは新しい人生においても、ルイとカレンに復讐を誓ったのである。
さて、その事件以降、顔に大火傷を負い、その
そんなとき、彼女はカレンに呼び出されて、命令を受けた。
「街に行って、
「申し訳ございませんが、他の召使いに命じてください。私は屋敷の清掃がありますので」
「あら、清掃なんてそれこそ他の召使いにやらせればいいわ。アタシはアンタを気に入ってるから大事なお酒のお
カレンはニッコリと笑っているが、彼女はトールが顔の火傷のことで目立ちたくないのを知っていてこの命令をしているのが、トールにはよくわかった。
「……かしこまりました」
貴族に逆らってはいけない、と学習したトールは
しかしそこで、とある人物との運命的な出会いが待っているのである……。
〈続く〉
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