6-2.見えない何か



 神殿内部も当然暗くサティとメシエ二人の懐中電灯が暗がりを照らしてはいませんが周囲を見てなそこにあるものを見ているようです。あなたも薄々感づいてはいますが彼女たちはとてつもなく夜目が効くようです。

 あなたがライトを照らしてみた光景はただただ広がる空間。そして最奥にある祭壇のような高台。何かを飾っていたかのような収納棚のような段差が壁に刻まれておりあなたはあれここ教会というか礼拝堂というかそういう宗教施設じゃなかったっけ混乱しています。


『わあ、広ーい』

『……該当データあり。ホールやスタジアムというものですか?』

『どうだろう? 規模ならホールが近そうだけど』


 彼女たちはここを何かの演奏会を行う音楽ホールのような場所だと思っているようです。

 たしかにあなたの頭の中にはそういった考えがありませんでした。あの祭壇のようなものもステージの名残なのかもしれません。

 表に刻まれた宗教的なものを感じさせる何かも実際はただのモニュメントのような何かである可能性も否めません。

 あなたが知らないだけであの彫刻も何か高名な人物かもしれませんし、北の大地のがっかり観光地の代名詞である時計台に近い存在かもしれません。

 ライトを空間内で飛び回らせますが特に何かを見つけることもなかったので、あなたは二人にカメラを張り付けて再び正面出入口外側の巨大彫刻を検分しようと移動します。

 そうして再び下から煽るように見上げカメラとライトを動かしていると、すたすたとやってメシエがやってきます。


『貴様、神を信仰するというのはどういう意味かしら』


 唐突な質問な上無神論者なあなたはその質問にほんの少し頭を悩ませ、こう答えます。


 祈るんだよ。


『祈るとは』


 こうなってほしい。こうしてほしい。そういうのをお願いするんだよ。


『願ってどうするのですか? 聞き届けた誰かが叶えてくれるのですか?』


 いんや。ほとんどの場合は誰も聞き届けないし誰も叶えてくれない。


『では何故願うのですか』


 祈りっていうのは見えない何かやいなくなった何かに思いを馳せる行為だと俺は思ってる。だからまあ、実際は誰かに言ってるわけじゃなくて、自分に言い聞かせてたりするんじゃねえかな。


『戒めるためだと』


 そういう事もあるって話だ。そもそも俺、出身からして神様に近くとも神様がいるって思ったことは一度も無いしな。


『ん? んん? 矛盾しています』


 そういうもんなんだよ。文化として根付いているけどそれを宗教的な儀式だと思ってないんだよ。


『つまり祈りはしているけどそれは神に対してではない、と?』


 どっちかって言えばそういうイベント、くらいの認識だ。


 日本人的な右に習えもあるかもしれませんが、再び思考モードに入ったメシエに伝える必要は無いとあなたは判断しました。再び頭上を見上げ彫刻を観察してゆきます。


 真っ直ぐ向いた両足の根元から二本、胴から更に二本の足が伸びており、腕は肩から上に伸ばされており何かに手を伸ばすような表現がされています。顔に表情は無く頭部も大味な仕上がりです。

 そしてそれらをよく見てみれば明らかに付け足されたかのような出来の足や削られなくなったような跡も見えます。

 それらの情報を粒さに拾ってみれば無事なのは足先と胴、顔の一部くらいしか残っていないのではないのでしょうか。あなたはそう見ましたが前提となる知識がないのでそれが何を意味するのかは分かりません。


『解析完了。ここよりさらに低い位置に重汚染金属層があります。トンネルの歪みはその影響かもしれません』


 メシエの説明では金属の地層が次元乱の影響を受けて弱い力場を持ったもの、らしいです。あなたはそんなことがあるのかと思いましたが彼女が言うのであればそうなのでしょう。


『うーん、何かをするために集まる場所だとは思うんだけど、何かはわからないなあ』


 サティが中から出てきました。彼女はパンパンと手を打っていたので何かを調べていたのでしょう。あなたは目の前にある彫刻を調べるのに夢中になっていたので返しの映像を確認していません。これは後から確認して何か面白い映像が無いか確認しておくべきでしょう。


『あとはあの横穴ですね』

『……うん、じゃあ行こっか!』


 あなたと二人は意気揚々と引き返します。トンネルから伸びる足場の奥に横穴があるからです。あなたはいつものように少しだけ二人の後ろに下がって横穴に突入する二人を後ろから追いかけます。

 自分たちが掘ってきたトンネルより幅のある横穴の先にライトを投げ入れ進んでいきますが、前を行く二人が急に足を止めます。

 頭一つ以上背の低いメシエの背後から覗き込むと、大きな穴が開いていました。カメラで覗き込んでも底が見えません。

 残念ですがあなたの冒険は此処で終わってしまいました。流石に深さのわからない穴に飛び込むわけにはいかない。あなたは踵を返し横穴を後にしますが、ここであなたは痛恨のミスをします。


 返しの映像には視線を厳しくする二人の表情が写っており、その表情は穴の奥底まで見通し何があるかを察した顔にも見えました。

 残念ながらその映像をあなたが見ることは二度とありませんが、彼女たちの中に一つの知識が刻まれました。

 即ち、そこが墓場であったという事です。 


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