深い穴の淵
5-1. 作為 > ホラー
ビルの残骸のようなものから意気揚々と地下へ向かって進むあなた達3名。あなたはカメラの感度や機能の拡張を済ませ二人を様々な角度から撮影しています。
当然画面の中には二人だけを収め自分は入らないようにするという入念ぶりです。そんなあなたのコバエのような動きにメシエは疑問符を浮かべていますが、気にする必要はありません。彼女が見ているのはあなたではなくカメラなのだとあなたは思っているからです。
ショッピングモールのようなビルは片方から土砂が入り込み最下層まで雪崩れ込んだようですが幸い階段部分が埋まっておらず、また中央の吹き抜けからまだ下に階が続いているという事がわかります。
天井から吊り下げられた案内板のようなものは何の文字か分かりませんが、問題はありません。案内板が指し示す先は土砂で埋まっているからです。
『ここは……倉庫かな? 中央に穴が開いててアクセスが良さそうだけど』
『それはそうかも知れませんが、在庫管理の仕方に無駄が多すぎます』
彼女たちは区切られたスペースに入っているテナント毎にそう評価しています。あなたはそういった配信者同士がやいのやいのしているシーンを欲していたので特に会話に参加せず彼女たちの様子を記録し続けます。
『こっちは……なんだろう』
『……。置いてある品物に統一性がありませんね。何に使うものでしょうか』
あーでもないこうでもないと話しながら徐々に階段を下ってゆくと、ふとサティがこちらに振り返りました。
『リスナーさん、暗いけど大丈夫?』
あなたはそれにライトを掲げて答えます。そのライトは白く十分な光量を持っていますが、以前サティが用意してくれたような明かりではありません。あなたはこんなこともあろうかといわゆる探索用の懐中電灯を用意してもらっていたのです。
ここまでである程度掴みは十分といったところだろうか。あなたは判断します。そしてあなたはおもむろにメンタル強者の二人に懐中電灯を渡します。
サティがいつものライトを自身の周囲に浮かせていましたが、それを切りこのライトで進むように指示を出します。
『え、これだけで? まあいいけど』
『貴様。この行為に何の意味があるのか答えなさい』
あなたは見事に本音を隠し取れ高に憑りつかれた数字信者になりました。この先には地下水路のようなものが予想されます。そこまで行けばきっと何かしらの映像が撮れるはず。
あなたは驚くべきことに自分一人が有名配信者の旅に同行しているということを忘れていません。一リスナーであることは確かですが、そうだとすると非常にまずいことになります。
配信者とは一人の個人でありながら有名人でもあります。彼女たちはグループでデビューしたという情報をあなたは得ていたこともあり、間違いなく何らかの芸能プロダクションに所属しているであろうこともあなたは予想できてしまいました。
であればどうすべきか。そう、イエスアイドルノータッチ。しかしここにいることは最早どうしようもありません。ならばやるべきは一つ。お裾分けです。
彼女たちの旅のシーンを切り抜き、彼女たちを推すリスナーたちへ届けることで自らの罪の重さから逃れるべくあなたは必死に撮影スタッフにクラスを偽装しようとしているのです。
『一番下の階はほとんど埋まっちゃってるね。どうしようか』
『サティ、簡易解析を』
『はーい。……あれ?』
『あちらから更に先へ向かうことが出来ます』
進路を転換しどうやらエレベーターホールから更に下へ向かつもりの二人。地上2階から地下1階へ向けて行くようですがあなたにはほんの少しいたずら心が芽生えます。
縦に長いエレベーターホール。しかも2階から1階をスルーして地下へ降りるつもり。エレベーターホール内を降りるとするならハシゴか飛び降りる他ない。
つまりローアングル。
あなたは手元に握っていたカメラを床に叩きつけ、跳ね返ってきたカメラに脳天を突き上げられました。
テレビのバラエティや深夜番組でやっているような、はたまたイベント会場でコスプレイヤーにたむろするカメラを構えた連中と一緒になってはいけないのだと言い聞かせます。
あなたは自分が一人のリスナーであることを思い出しました。ローアングルはあなたが見たいと思ったのではなく、こうなれば面白いかな等と思った結果です。あなたは自分の推しを一般的な消費コンテンツのように扱うという悪手を選んでしまうところでした。
推しとは。推し方は違えど、彼女たちの行動を応援するものである。であるからして。
あなたは先に降りるであろう二人にカメラを用意させました。
見るかどうかは別として、彼女たちがどういう風に撮影するのか、どんな画をとるのか。その結果次第であなたの姑息な策は実を結んでしまうでしょう。
ただし二人はしっかりと着込むタイプだったという事をお知らせしておきます。
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