4-4.呉越同車
『ここは左へ向かうべきです』
『そっちはいつも行ってたルートだから、今回はあえて右側のルートがいいよ!』
二人の配信者が言い争っている。なるほどこういう場合もあるのか。
あなたは今アップグレードどころか3輪の観光用タクシーからSUVベースのキャンピング仕様車へとクラスチェンジした車内で後ろの議論を聞いています。
この車に変えてから更に2度ほど湖畔跡をぐるりと回り込んだ先は広大な平地でした。白い大地は砂ではなく草のようなもの。右手側に見える黒い山肌は樹木。東に向かっていると言っていたので南側にある山脈を迂回して東に向かっているのでしょう。
山を見ながら進むにつれ徐々に北側に進路をとっています。このままいくと大分進路が北にズレるのではないだろうか。
『山間は進むの厳しいけど行けそう?』
『山間を抜けるのですか? そのまま北に進路をとれば走破距離は少なくて済むはずでは?』
『東に行くまでの道も調査対象だからねー。特に山間は北のルートに比べても試行回数は少ないし』
『何故ですか』
『星裁の影響だね。どうしても迂回したところとか、後回しにした場所が多くて』
『……。確認しました。では直進ですか』
『どうしようかなって』
進路に悩んでいる様子でしたので、あなたはつい口を出してしまいました。
どっちでもいいなら、せーので指さした方向にしようか。
きょとんとした表情の二人でしたがとにかくやってみることにしたようです。
その結果が何故かぶつかり合う二人でした。
お見事です。あなたは二人を争わせることで優雅な待機時間を手に入れました。
ところで、あなたの定位置でもある運転席は装備が充実しています。それもそのはず、あなたはサティが持っているデータ群から車両に関するデータの閲覧を認められたのでそのデータのいいとこどりの充実したコックピットを形成することが出来ました。
運転席はセンター、左右にウォークスルーがありますが湾曲したフロントガラスにより視界は非常に良好、原付免許しかないあなたのために安心のオートマチック車仕様の足元。しかしながらトランスミッションにはマニュアルモードに対応する部分も存在しています。当然本格4WDに装備されるトランスファーレバーもあり、なるほど悪路を走破するための車というのは伊達ではありません。
そして余計なことにあなたは立派な無免許空想ドライバーですので自分のことをセミプロドライバーだと信じている部分があります。ゲームしか運転経験のない車童貞が調子に乗ったのです。
一般車に比べ乗り心地が悪い気がするなどと勝手な勘違いで後部での快適な居住性を求めキャンピング仕様に改編する案を出すという素人が考えた僕の最強のマシン計画を発案してしまいます。
それは当然後ろに乗るであろう二人の為です。
そして実際に出来た車はあなたの知らない不思議な車になっています。外身は確かにあなたの知るSUVですが、後部座席に広がる豪華な内装はどこの高級ホテルだと言わんばかりに広がっています。心なしか外から見た車の外観以上に広い気がしますが気のせいでしょう。あなたは世の中には走行時と停車時で車内の空間が明らかに違うキャンピングカーがあるという事を知っています。
『リスナーさんはどっちがいい?』
『貴様が決めなさい』
埒が明かなくなった二人があなたに判断を委ねます。
あなたとしてはこの車は悪路を走ってなんぼだろ、という考えがあります。そして普段は走っているという北回り。あなたの答えはシンプルです。
まっすぐ行ってみよか。
既にフロントガラスに2種類のルートが指定されており、山間を抜けて高原や山岳地帯の合間を抜けて行くルートで道がこれでもかとうねり狂っています。
しかしハンドルを握るあなたは新たな相棒の鼓動を感じてやる気になっています。いける、俺ならいけるぞ、そう言っているように感じました。気のせいですが。
大きく凹んだ道も狭い山間の道もパワフルに走行する未来型SUVにあなたの心は奪われています。後ろで二人が何か言っていますが、あなたはちらりと返しに映る二人が真剣に討論している姿を見て問題は無いと感じてします。
しかしあなたは失念しています。このアトラクション性に富んだ悪路踏破のリアクションシーンがほとんど無いことに。そしてそれに気づいたのは山間の道を進んだ先にあった高山地帯の廃墟群で休憩を挟んだ時のことでした。
『ここは?』
『んー? えっと先史文明における居住区、一応保護区にあったはず』
『……ん? 本当にここですか? 座標がずれている気がしますが』
『座標がずれているのは多分星の瞳が開いてきてるからじゃないかな』
『ああ、それもありましたか』
高地にある長方形の建物。その残骸を前に二人は話をしています。車から降りてその建物を眺め、さらに周囲を眺めていたあなたですが、あなたはこの地の秘密をなんとなく察しました。
この辺って町が埋もれたかなんかした?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます