ドリームライバー

七取高台

はじまりのばしょ

1-1.配信者とリスナー



 白い砂の大地は大海原のうねりを描いたかのように荒々しく地平を制する。赤から青へ鮮やかなグラデーションに染まる頭上に、散りばめられた純白の金平糖を思わせる刺々しいまでの白き星々。

 遠くに見えるのは何かを囲うように配された石積みの何か。また別の方向には巨大な白い枠型が砂の大地に突き刺さるように生えている。


 そんな場所にある男が発生しました。この男はある時突然に現れ、多少首を傾げながらもこの白き砂の大地を当てもなく彷徨っています。


 そう、それはあなたです。

 あなたは突如この場所に現れ、見知らぬ場所であろうという事を確認したうえで、何という事もなくこの地を探索しています。食料や水などの人間に必要なモノは何もないというのに、散歩でもしているかのように気ままにこの地を歩いています。


 あなたは最初、何だ夢かと寝ぼけ眼のままに歩き出し、砂に足を取られそうになってそれを誤魔化すかのようにきれいにでんぐり返しを決めたことを忘れています。そして一日に一度は転びそうになって足を取られた際にどんなカバーの仕方があるかと真剣に考えています。ちなみにあなたは、結局砂に足を取られてしまうのなら素直に回ってしまえと前方宙返りを決めることにしたようです。着地後のフィニッシュポーズにまでこだわることを決意していますが、それを評価するのは結局自分自身なので何時まで経ってもあなたの演技は終わらないのですが。


 あなたはここ最近、自分の身の回りに起きた出来事について疑問に思っているようです。それは此処に発生したことでは無く、此処がどこか知っている場所のような気がしていることです。

 あなたは土地勘というものが優れています。あなたが以前、とあるコンクリートジャングルで迷子になって3時間ほどウィンドウショッピングに興じていた時も、勘を頼りに道を知っている人を探り当て無事脱出を果たしています。道案内をしてくれた女性も、迷宮と呼ばれるダンジョンを攻略したあなたを、まるでプリンに醤油をかけて口に含みウニを食べていると主張している人を見るような目で見ていました。


 あなたの土地勘は、ここをあの時と同じように案内人がいるはずだからそれを頼りに探し出せばいい。そんなことを考えながらこの砂の大地を練り歩いて行きます。

 そしてある時、とある遺跡群でおままごとに興じていた時に起こりました。


『ハロー人類!! 今日も私、サティちゃんのワールドツアーにようこそー!!』


 どうやらあなたの予想通りに道を知っている人に巡り合えたようです。


『スタートは再びココ、グラウンドゼロだよー! 今日からまた旅していくんでよーろしくぅ!』


 あなたはその声から女性が何かしらの仕事でここに来ているのだと予想しました。それゆえあなたは多くの人の意識から消える箪笥の角のように静かに体勢を低くして待つことにしたのでした。 


 そうしてどれくらいの時間が経ったでしょうか。あなたは彼女に話かけることもなく未だに廃墟群の壁の一つとして静かに佇んでいました。あなたにも仕事中の人間を邪魔しようとする悪魔的な思考や、テレビの中継にピースサインを掲げながらアナウンサーの背後に映りに行くようなそんな一般パリピ思考が無いことを嘆くべきなのか分かりませんが、誰かが見ていたらストーカーか肉体を使った無機物トリックアート作家かシンプルに変態に思われるでしょう。


 しかしあなたは残念ながら自らを空気に馴染む一般人オブ一般人だと確信しています。ですので彼女の容姿や話す内容について耳目に入ったり入らなかったりしています。

 どうやらここは何かの事故現場であり、それは彼女が知ることも出来ないくらい昔の出来事であるようです。そして彼女は世界一周をする旅人で、その映像や音声を世界に届ける配信者として活動しているようです。

 彼女という惑星の周囲を飛び回る衛星のような動きをしている小さな機械のようなものはカメラやマイクであるとあなたはあたりを付けました。であるならば、この場の空気に溶けたら明らかに劇物と化すであろうことなど知るよしも無く、彼女の映像に映りこむ何の変哲もないモブに徹するべきだろうとあなたは考えました。

 あなたは彼女の首から上はともかく、着ているものが明らかに近未来的なボディスーツであることなど気にもせず、廃墟の壁に腰掛けました。


 急に気付いたかのように振り返った女性にあなたの予定は崩されてしまいますが、あなたは自分が誰の印象にも残らない程の名無しの権兵衛であることにプライドをかけています。

 あなたはさも今気づいたとでも言わんばかりに驚き、そしてなんとなく会釈。驚き顔の彼女の背後にカメラのような機械が回り込むのに合わせて廃墟群に姿を消しました。

 一般人どころかカメラに映らない妖怪のような立ち回りに気付くこともなく、そしてこちらに近づく足音から離れるように、あなたは再び主人公とぶつかる食パンを咥えたヒロインが咥えていた食パンのなれの果てになる作業に戻るのでした。



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