夕暮百物語・第12話 カセットの裏

大輔さんは昭和後期生まれだ。ちょうど家庭用ゲーム機ブームの最中。

小学校では毎日のように、友人達とゲームの話題で盛り上がっていた。

時にはカセットの貸し借りなども行う。

大輔さんも同級生の興毅とよく貸し借りをした。


興毅は非常に裕福な家庭で、親に沢山のゲームを買い与えられていた。

カセットの裏に必ず、「こうき」と平仮名で自分の名を記す。

ある日、大輔さんは興毅の家に行き、ゲームカセットを借りることにした。

社会現象も起こした人気RPG。

興毅は「必ず返してくれるなら」と念を押し、大輔さんに貸してくれた。


大輔さんはカセットを片手に帰宅する。

カセット裏を見ると名前が書かれていない。特に気にせずゲームをプレイした。

ゲームを借りてしばらくして、興毅が親の夜逃げで登校しなくなった。

裕福な家庭だったがバブルが弾け、親の事業が破綻したのが理由だ。

真っ先にゲームカセットのことが頭に浮かぶ。

「もう返せない」

でもこのままいけば自分のものだ。そんな悪魔の囁きも呟く。


家に帰り、ゲームをしようとする。するとカセットの裏に何かが記されていた。

「こうきのものだよ」

大輔さんは気が動転した。昨日まで文字など記されてなかったからだ。

両親に聞いても知らないと答える。


大輔さんは気味が悪くなり、ゲームをプレイすることをやめた。

しばらくして別の友人にカセットを又貸ししたそうだ。

カセットは又貸しの繰り返しで、誰の元に行ったのか分からないままだ。

大人になった大輔さんは、興毅は一体どうなったのかと考え込むことがある。

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