夕暮百物語・第11話 雨合羽を着た親子

陰鬱な梅雨真っ只中。仲澤さんはバイト仲間達と暑さを凌ぐ為、雨の中、百物語をすることにした。場所は仲澤さんが住むアパートの一室、一階の角部屋だった。陽が落ちる頃に仲間達を呼び出し、百物語を始めた。百物語と言っても蝋燭など用意せず、ただ暗い部屋で怪談を語るものだった。メンバーの中に怪談好きの徳田という男がいた。


彼は意気揚々と先陣を切り、怪談を語り始めた。徳田は思った以上に短く簡潔な語りで、部屋のメンバーを引き込んだ。気づけば徳田以外語らず、彼の語りの独壇場だった。創作怪談と謳いながらも、聞いてる皆の背筋を凍らせた。気づけば百物語も半分近く消化され、徳田は「とっておきの創作怪談がある」と身体を揺らし、やや興奮気味に話した。先に創作と宣言したことに呆れもしたが、仲澤さん達は前のめりになり、彼の話に聞き耳を立てた。内容は真黄色の雨合羽を着た親子幽霊の話だ。事故で亡くなった親子の話で、ありきたりな内容ではあったが、話が進むにつれ雨音も激しくなり、その雰囲気が徳田の話術と相まって怖さを引き立てた。



話を終えてすぐ、玄関のドアが開く音がした。途中で参加予定の木島が着たかと、迎えに行くが誰もいない。するとすぐ、ずぶ濡れの木島が部屋に入ってきた。そして入るや否や「自分の前に、真黄色の雨合羽を着た親子が部屋に入るのを見た」と真面目な表情で話した。一瞬で部屋が悲鳴に包まれた。仲澤さんは冗談はやめろと語気を強めに話し、徳田も唖然とした表情だった。二人で話を合わせたようでもない。木島は女と子供が入ったとの一点張りだった。徳田は「この話は創作だ」と否定した。


気を取り直し、今度は順番に怪談を語り、百物語は終了した。先程の親子の件以外、特に何も起こらなかった。ただ序盤の徳田の勢いは無くなり、早々に腰を上げ「帰る」と話した。徳田は雨の中一人、車で帰ることにした。残りのメンバーで窓から彼を見送ろうとすると、真黄色の雨合羽を着た親子が、彼の後ろを小走りで付いて行くのが仲澤さん達に見えた。木島も指を差し、あの二人だと答えた。


その後すぐに徳田の乗った車が貰い事故を起こした。彼に大きな怪我はなく、皆、安心したが、あの親子が原因ではと疑っている。徳田は未だに「あの話は創作だ」と頑なに答えるそうだ。「創作と言えど百物語は、話した内容に似た存在を呼び寄せるのかもしれない」と仲澤さんは話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る