絶滅危惧種 ハンドパン その2
「それでさっきから城内が騒がしいんですね。たかだか虫ごときで何を大げさですねー」
魔王城の執務室、中央に設置されているソファーの上で笑いながらモニカは話していた。
「モニカさんはハンドパンの姿を見ていないからそんなことが言えるんですよ!あれは黒い悪魔です!!即刻亡ぼすべき存在ですよ!!」
「魔を統べる王が悪魔に恐れをなすとは嘆かわしい。勇者にも恐れをなして、一体何になら勝てるんですかフォルテ様?」
すでにハンドパンの影に怯えるフォルテはその姿を思い出し、身震いしながらモニカに語りかける。そんなフォルテオを見て呆れて笑うモニカ。
「まぁまぁ二人とも、落ち着いて下さい。いまアコール様が対ハンドパン用の特殊部隊を要請していますので、直に片が付きますよ」
呑気に笑うモニカと、青白い顔で恐怖を訴えるフォルテに向けてシンバは事の今後の方針を説明する。
「そうですか、それは良かった。ほんと、今も城内にあの黒い影が潜んでいるのかと思うと気が気じゃありませんからね。一刻も早く駆除して欲しいですね」
「それはそれ、仕事は仕事。ほら、手を動かして下さい魔王様。片付けないといけない書類が溜まってますよ」
先ほどから手を動かしていないフォルテに向けて、シンバは書類の山を次々にデスクに置いていく。
「しかし、何事にも専門家っているのね。一応絶滅危惧種なんでしょ?そんな希少な魔物を狩る専門家がいるもんななのシンバくん?」
「私も詳しくは知りませんが。アコール様いわく、呼べば喜んで来るそうですよ?」
「生命力が強くて素早くて、しかも数も多いってそんな面倒な生物の相手を誰が好き好んでするのか。物好きが多いんですねぇ」
モニカは目の前に置かれたお菓子に手を伸ばしながら疑問を口にする。フォルテもアコールの手配した部隊に心当たりがないので首を傾げていた。
「お?なにやら来たみたいですよ」
そんな中、いち早く情報をキャッチしたシンバの耳がせわしなく動く。
『緊急、緊急!勇者の襲来です!!各員はただ、ブツッ!!何やってる!警報切っとけって言っただろ!』
いつもの勇者が来たことを告げる警報、しかし今回はアナウンスが途中で打ち切られる。
「い、いったい何があったんです?誤報でしょうか?」
フォルテの疑問に同じく事態が把握できないモニカは首を振って答える。
「勇者が来たのは本当のようです。しかし、その目的は魔王様ではなく違うところにあるようですね」
じっと耳を澄ませて情報を探るシンバがフォルテに説明する。フォルテとモニカはシンバから新たな情報が伝えられるまで黙って待っていた。
「なるほど、そうでしたか」
おおよその経緯が掴めたのか、シンバは音を探るのを止めフォルテたちに向き直る。
「何かわかりましたか!?」
フォルテはシンバに詰め寄る。
「はい、どうやら勇者たちの狙いはハンドパンのようです」
「勇者がハンドパンを?わざわざ近くに魔王がいるのに、なんでわざわざそんな虫を相手にするの?」
モニカがシンバに対して疑問をぶつける。
「それはハンドパンの経験値目当てです」
「経験値?」
今度はフォルテがシンバの言葉に疑問符を浮かべた。
「はい、どうやら勇者というものは魔物を倒すと一定の経験値というものを得られるそうです。そして、それが一定数溜まるとレベルが上がり強くなれるんだそうです」
「それならハンドパンなんて厄介な魔物倒さなくても、もっと手軽に倒せる魔物狩ってればいいじゃない?」
シンバの答えに更なる疑問を口にするフォルテとモニカ。
「それは、魔物から得られる経験値というのはすべて同じという訳ではなく、普通は強い魔物ほど多くの経験値を持っているみたいです。しかし、ハンドパンは強さの割に得られる経験値が破格のようで」
二人の疑問に素早くこたえるシンバ。その説明を聞いてフォルテたちは勇者の登場を納得した。
「へぇー、それなら仮にも魔王のフォルテ様ならさぞかし膨大な経験値をお持ち何でしょうね?私もその経験値を得れば更なる高みにいけるんでしょうか?」
モニカはフォルテに不敵な笑みを浮かべる。
「も、モニカさん。だからって僕を倒すとかはなしですよ!!身内にまで命を狙われたら気の休まる暇がありませんよ!」
フォルテは必死にモニカを説得する。
「モニカさん。そもそも我々魔族には相手を倒して経験値を得るなんて事出来ませんよ。先ほどの話はあくまで人間特有の話ですから」
モニカが馬鹿な真似をする前にシンバが止めに入る。
「それにどうやら魔王様は別格。倒しても経験値は得られないようです。理由は知りませんが、どうやら昔からそのようになっているそうです」
「なるほど。まさかの実力に見合った配慮でしたね、フォルテ様」
シンバの言葉にモニカは可笑しくなって答える。そんな羞恥を受けながらも、フォルテは冷静に聞き流すように努めた。
「しかし目的が僕ではないとはいえ、勇者が城内に居るのは気が気ではないですね」
「それなら様子を見にいきますか?」
フォルテの言葉にモニカが楽しそうに行動を促した。そうして、シンバの小言を背に受けながら二人はハンドパン狩りをする勇者の元へと向かうのだった。
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