最弱魔王ですが、仲間に助けられてなんとか生きてます〜変な勇者に襲われる最弱魔王の奮闘記〜
@mikami_h
無名勇者
「フハハハハハ!!さすが勇者だ、まさかここまで追い詰めるとは思わなかったわ!!だが、我は魔王軍四天王が一人!爆音のボンゴ!!この程度ではやられんぞ!!」
場所は絢爛豪華な城の一室、数百人は収容できそうな広い室内には4人の影があった。見上げるほど高い天井には豪華なシャンデリアが飾れ、それが戦闘の衝撃により激しく揺れいている。窓ガラスは割れ壁際に飾られてあった高級そうな調度品の数々はすでに原型を留めていない。
そんな室内で高らかに名乗った大男は、見た目通りの怪力で巨大な戦斧を振りかざす。大男の名はボンゴ、先ほど自身が名乗った通り、彼は魔王の支配する魔王軍の将であった。
くすんだ緑色の肌に2メートルは優に超える巨体、その体の大きさに加え鍛えられた四肢がさらにボンゴの存在をを大きく見せている。
彼が今刃を交える相手は勇者の一行、この世界は魔王と勇者が存在しており両者は日夜争っている、その中で普通に繰り広げられる、魔王の苦労話である。
「我が戦斧、その身に食らうがいい!!」
体も声も大きなボンゴは身の丈程もある、愛用の戦斧を振り上げ勇者一向に襲い掛かる。
片や勇者一行はそれに応戦するため一歩前に出た戦士が、こちらも自身の体を覆うほどの大ぶりな剣を構えボンゴの戦斧を受け止める。
激しくぶつかり合う金属同士は、甲高い音と共に黄色い火花を散らす。
「ぬぉぉぉぉおお!!こしゃくなぁ」
「い、今だ勇者!俺が抑え込んでいる間に止めを!!早く!!」
力任せに上から押さえつけるボンゴ、それを片膝をつきながら耐え忍ぶ戦士、拮抗していたかに見えた二人だがだんだんと戦士はボンゴの力に押されていく。
勇者の男性は好機とみるや、戦士の言葉に無言で頷きボンゴに向けて駆けだす。そんな勇者の体は、ほんのりと淡い光で包まれていく。
「魔法でブーストをかけたわ、これで奴にも攻撃が効くはずよ!お願い勇者!これで決めて!!!」
後方にいた僧侶の女性が勇者をサポートすべく魔法を行使する。
仲間の援護を受け、勇者はボンゴの元へと駆ける。戦士に抑え込まれているボンゴは、成す術なく勇者の一撃を受け入れた。
「ぐおぁぁぁぁ!!そ、そんな。魔王様、申し訳ありません、、」
勇者の剣を胸に受け、四天王爆音のボンゴは断末魔と共にに崩れ落ちていった。
「やったな勇者!さぁ、これで残すは魔王のみだ」
強敵を倒した勇者の元に駆け寄る戦士の男と僧侶の女性。喜ぶ彼らをよそに勇者の顔は目の前の重厚な扉を見つめていた。
「そうよね。喜ぶのは魔王を倒してからよね。さぁ、戦士も勇者を見習って気を引き締めていくわよ!」
「お前だって一緒に喜んでいたじゃないか」
不貞腐れる戦士を他所に、僧侶は勇者の言わんとすることを察し、気を引き締めなおす。気を取り直した三人は顔を見合わせた後、最終決戦へと向かうべく魔王のいる部屋へ続く扉に手をかけた。
先ほどの部屋からは敵の襲撃もなく、ただ真っすぐな廊下が続いていた、その先には先ほど倒した大男ですら楽々通れそうなほど大きな扉がある。
その見上げるような扉の奥からは得も言われぬ重圧が漂い、勇者一行の三人に重くのしかかってきた。
「この先に魔王がいるのは間違いないみたいだな。扉の奥から重苦しい空気をひしひしと感じるぜ」
「鈍感な戦士が言うんだから間違いなさそうね」
尻込みする戦士と僧侶の間を平然と進む勇者。彼がその大きな扉に手をかけると意外にもすんなりと道は開けた。
開いた扉の先には高級そうな絨毯がひかれ、左右にそびえる柱には豪華な彫刻が彫られている。
勇者を先頭に三人は部屋へと踏み入る。いつ敵が襲ってくるのかと辺りを見回しながら進む戦士、緊張しながらも部屋に入ると、先ほど三人が入ってきた扉は自然と閉まり一行は退路を断たれた。
「お、おい!出口を塞がれちまったぜ!?」
「こ、こまで来て逃げるなんて選択肢はないわ」
動揺する戦士、覚悟を決めた僧侶。その時、部屋の奥から声が上がり、三人は緊張の眼差しを奥へと向ける。
「よくきたな勇者よ」
威圧感を含んだ声が三人の耳へと届く、咄嗟に身構える勇者たちに対して声の主は落ち着いた様子で話を続けた。
「慌てずともよい、すぐ戦おうなどとは思っていない。せっかく苦労して我が前まで来たんだ、少し話でもしないか?」
唐突な提案に目を丸くする戦士と僧侶。部屋の奥中央には大きな玉座が置かれ、そこには光を背にした人物が座っている。
「今更何言ってるの!あなたさえ、あなたさえいなければ、世界は平和になるの!」
「そうだ、お前のせいで俺たちの町は貧困に喘いで餓死者まで出ているんだ!今までの苦しみ、ここで断ち切る!!」
他に人影は見当たらない、三人は目の前の人物が目指していた魔王であると確信し遠くから声を荒げる。
必死に猛抗議する戦士と僧侶、そんな二人を後目に、勇者は武器を手にゆっくりと魔王へと近づいていく。
それを見て二人も慌てて勇者へ続き、魔王に近づくにつれて段々とその容姿が三人の目にも映ってきていた。
部屋の奥には階段があり、その上には豪華な玉座が据えられている、魔王はそこに腰を掛けていた。
戦士と僧侶は魔王の姿に驚く、そこにはまだ青年と呼んでも差し支えのない子供の姿があったからである。
「あ、あなたが、魔王?まだ子どもじゃない!?」
「見た目に騙されるなよ僧侶!俺たちを油断させる作戦かもしれない、気を抜かずいつでも攻撃できるようにしておけ!」
魔王の姿に驚く僧侶、それを見て注意を促す戦士、彼らの間には混乱と緊張が漂っていた。
「我は戦うためにお主たちを招いたわけではない。どうしても聞く耳を持たぬか?」
一段高い場所からから三人を見降ろし魔王は呟く。
「ご丁寧に退路まで塞いでおいて、元々帰す気なんてないんでしょ?」
魔王の言葉に僧侶は固く閉まった扉を見返しながら言う。魔王は僧侶の指摘を受け扉に目をやり呟く。
「いや、開けたままじゃ寒いから」
「「え?」」
「この部屋って、無駄に広くて寒いんだよね。折角温めても扉開けたら寒気が流れ込んでくるし、だから自動で閉まるようにしてあるんだよね。それと言っとくけど、この部屋土足禁止だからね。入口の注意書きちゃんと読んだ?」
設備の不備を嘆く魔王の足元はもこもこしたスリッパが装備されていた。
あまりの言葉に先ほどまで騒いでいた戦士と僧侶も我を忘れるが、勇者だけは武器を掲げて魔王の元へ歩を進める。
「ちょ、ちょっと待って。いいから、もう靴のままでいいから!だから、まずは話そう?話し合いで解決しましょ!?ほら、出来ることならお互い戦いたくないでしょ?」
不気味な威圧感漂わせる勇者に対し、魔王は先ほどまでの威厳はすっかり消え去っていた。椅子から腰を浮かせて両手を突き出して勇者に静止するよう促す。
「イイエ」
初めて勇者の口から機械的な声が響く。
「そんなこと言わずに、これ以上無駄な血を流すのはやめましょう?ね?」
「イイエ」
魔王の説得にも勇者は耳を貸さずに否定する。まったく話の通じ合ない相手に魔王は焦りを滲ませる。
「そ、そうだ!まずはお互いを知るところから始めましょう!申し遅れました、私魔王させていただいてますフォルテ13世と申します。まだまだ若輩者ではありますが、気軽にフォルテとお呼び下さい」
何とか場を和ませるために魔王フォルテは自己紹介を始める。
「・・・・」
フォルテは勇者の言葉を待つが、一向に口を開く素振りがなかった。
「えっと、私はフォルテ13せ」
「もう!聞こえてるわ!!」
自分の言葉が届いていないと考え、再度自己紹介を始めたフォルテに僧侶がたまらずに声を上げる。
「彼の名は、勇者あ」
口を開かない勇者に代わり僧侶が答える。
「え?あ?え?なんて言った?」
フォルテは聞きなれない名前を言われ、再度尋ねる。
「だから、あが彼の名前なのよ!」
僧侶は呆れたように勇者の名前を繰り返す。
「す、すまない。それでそちらの戦士と僧侶の名は?」
勇者の名前に違和感しか感じないが、フォルテは気を取り直して二人に名前を尋ねる。
「もしかしたら土地の風習でみんなそんな名前かもしれないからな、いきなり否定して相手を怒らせてもまずい」
フォルテは相手に聞こえないように小声で呟く。
「私は僧侶のビオラ、彼は戦士のランペットよ」
「えっ?普通の名前すぎません? なんで勇者だけ一文字なの?」
想定外の名前につい本音が漏れるフォルテ。
「何言っている!?勇者の名は偉大な神より授かった有難い名!それを愚弄するとは許せん!!」
「いやだって、そんな名前、つけるの面倒になって、適当に決めましたって感じじゃないですか!?」
戦士の言葉についつい本音を叫んでしまうフォルテ。
「さっきからごちゃごちゃと何を言ってるの!?もうやっちゃいましょうよ勇者あぁ?」
「いや、あが一個多いよね?有難い名前がなんだか残念なニュアンスで聞こえるよ!?」
フォルテは抗議の声を上げるが勇者一行の耳には届かず、業を煮やした僧侶ビオラは勇者に攻撃を促す。
「あぁ↑魔王の言葉に惑わされるな」
「語尾を上げるとなんだか柄悪く感じるね?」
今度は戦士ランペットの言葉に反応するフォルテ。
「あーぁ、さっさと攻撃しちゃって!」
「ほら今度はやっちゃった感じで言ってるし。もう完全に勇者の名前で遊んでるよね?」
尽きることのないお供の二人とのやりとりにも触れず、勇者は動き出す。
「ガンガン、イコウゼ!」
勇者は無機質な声で味方に指示を出した。
「ちょっと待って。なんでそんなに好戦的な勇者なの!?お国柄なの?」
「我がミュート国まで愚弄するとは!魔王とて許されんぞ!」
国を侮辱されたと感じ、戦士ランペットが怒鳴り声をあげる。
「そんな、侮辱する気はないんです。だから、剣を下して。勇者もさっきから目が怖いから、死んだ魚みたいな目してるから!」
焦点の定まらぬ目で魔王をずっと睨みつける勇者あ、その姿にさすがの魔王フォルテも恐怖を覚える。
「それとこの際言っておくけど、もともと餓死の原因はミュート国にあるんだからね!?」
恐怖に震えながらもフォルテは言うべきことは言う男であった。
「ミュート国がうちの漁場まで侵略して勝手に漁始めるから、こっちも仕方なく経済制裁で小麦の輸出を止めたんです。それを横暴だって言って交渉の席にも着かずに一方的に国交絶っちゃうしで、うちの外交官も困ってるんだから」
ミュート国の暴君ぶりは国の内外にも知れ渡っていた。そのため国内でも反政府勢力の鎮圧に苦しんでいると聞いている。
ランペットは心当たりがあるためか、フォルテの言葉に反論出来ずにいた。
「ですから、まずは落ち着いて話し合いの場を、あぶなっ」
フォルテが話しを続けていると急に勇者が切りかかってきた。
「まだ人が話してる最中でしょうが!?いわゆるイベント中ですよ?なんで攻撃してくるの?なんなのこの勇者?話し通じないの?」
「イイエ」
涙目で叫ぶフォルテに勇者は無表情で答える。
「通じてるなら、お願いだから話聞いて」
涙目になって願うように勇者に話しかけるフォルテ。
「す、すいません、この子ちょっと話し通じないところがあって」
あまりにフォルテを不憫に思ったのかランペットとビオラが勇者を抑え込む。
「勇者落ち着け、非はこちらにもある。ここは魔王の言う通り、いったん話し合おう」
「イイエ」
ランペットの提案にも勇者は好戦的姿勢を崩さない。勇者あは、二人の制止すら振りほどき再度フォルテに剣を振り下ろす。
「やめて!わかった、わかったから。なら、半分、輸出していた量の半分の小麦あげるから」
「イイエ」
勇者はフォルテの誘惑にも飲まれず攻撃の意思を貫き通す。
「ちょっと待って勇者!無条件で半分の小麦が手に入るんだもの悪くない話じゃない!?」
「そうだぞ勇者。ここは魔王の好意を受けて一旦国に帰ろう!きっと王様も喜んでくださる」
フォルテの願ってもない提案に、ランペットとビオラは勇者によってこれ以上話がこじれるのを危惧していた。
「イイエ!メイレイサセロ!」
勇者あは、そんな仲間の意見を聞くことなく魔王に攻撃を行う。
フォルテは勇者の攻撃を何とか避けつつ、室内を懸命に逃げ惑う。そうこうしているうちに、勇者の動きがどこかぎこちなくなってきた。
「なんです?説得に応じてくれましたか?」
フォルテは勇者の様子に違和感を覚えながら、距離を取って様子を観察する。
「イ、イ、イノチダイジ・・・」
勇者はカクカクした動きを見せると、ついには動かなくなった。
「いったいどうしたの?」
フォルテは勇者の行動を不思議に思って連れの二人に伺う。
「これは、あれね。バグったわね」
「あーあ、こうなると再起動しかないか」
二人は見慣れた光景なのか、呆れた顔で勇者を見ている。しばらくしてランペットが動かなくなった勇者を引きずって部屋を後にする。
「えーっと、最後に記録したのどこだっけ?」
「確か、隣町の宿屋よ」
「あー結構戻るな。めんどくさ」
ランペットに続いてビオラもブツブツ言いながら部屋を出ていく。
「あ、魔王!くれぐれも、小麦の件は宜しくね」
部屋を出る直前にビオラはフォルテに振り返り、念を押す。
「もし、約束を違えたら、またこいつ連れてくるから」
「あ、あぁ、わかった」
ビオラはランペットに担がれた勇者を指さして、脅すように告げる。
フォルテは目の前の光景についていけないまま呆けた返事を返す。勇者一行はそのまま去り、部屋にはフォルテのみが残された。
「勇者って怖い」
フォルテは緊張が解けてその場に座り込んだ。
実力主義といわれた魔族の世界、その頂点に君臨する魔王、かつては絶大なる力を有していた。
しかし、時代と共に王としての在り方も移り変わり、今では国のトップに必要なのは力よりも統治力であった。
現魔王、フォルテ13世、長命な魔族の中ではまだ若い162歳ながら、その政治的手腕を買われ魔王として魔族を束ねる存在。
しかし、歴代魔王の中では最弱であり、その力は下級モンスターにも劣る。未だに戦いを挑んでくる勇者を避けるため、今日も戦わずに勝利を収める。
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