乱孵

桑鶴七緒

第1話

「空から人が降ってきた」


一等地の区域と誰もが知っているその地の歩行者天国の通りにそびえ立つ無数ともいえるビル街の群れ。一つ裏通りのビルの屋上から何かが落ちてくるのを数人の通行者が空を見上げてみると、それは急直下しながら目にも止まらない速さで地面へと落下した。

ドサリという鈍い音とともに、何かが砕けた音が撹拌かくはんするように物体のなかで鳴り渡り、それは一瞬の出来事としてやがて大量の赤い液体が流れ出てきた。


「おい!人だ!あの上から落ちてきたぞ!」

「何?何があったの?ヤバくない?!」


人々のどよめきが空気を膨らませるように広がっていくと、誰かが持っていたスマートフォンに電話をかけて警察や救急車が駆けつけ、即座にバリケードやビニールシートが貼られて立ち入れなくなってしまった。警察官と救急隊が話し合いをしていると、やがてその人物は搬送されていき、しばらくの間はその区間は通行止めにもなった。


病院へと着いた救急隊は院内へ運んでいくと、その人物を救急処置室の台に乗せ応急処置をつづけていった。二時間もしないうちにその人物は息を引き取り、医師や看護士らも肩を落としていた。身元の確認が取れるとそれからその人物の家族であろう両親や妻がやってきて、その人物の無残な姿に泣き崩れて悲鳴を上げていた。

それを見守る中ある看護士がその人たちの元に近づいて、再度その人物の名前を確認した。


「奥様。このご遺体ですが、あなたの旦那さまにあたる登坂とうさかあきらさまでお間違いないですか?」

「そうです、主人です。どうして……一体何があって飛び降りなんかしたんですか?」

「その件に関しましては、警察の方から事情説明がありますのでお聞きください」


輝の妻である莉花は今にも過呼吸になりながら必死で自分の身を安静にさせようとしていた。待合室の椅子に座りしばらく待っていると警察官も訪れて彼らに検証の結果を聞いていくと、やはり輝本人の自殺による行為によって起きた事件だったと話していた。

莉花はすぐには信用できることができずに他者の犯行もあるのではないかと問いていった。警察官は日を改めて再び捜査にあたると話し彼らを後にして病院から出ていった。

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