結婚、一人目②
「正直納得いかないんだが」
「本当ですよ! タクロウはともかく私まで犯罪者として疑われるなんてありえません! 私これでも天使ですよ!」
「いや、そこじゃないだろ」
話を終えた俺たちは、ギルドの酒場で食事をとることにした。
普段ならクエストを選んで街を出るところだが、今朝まで働いていたからさすがにこれ以上頑張る気にはなれない。
今日はクエストを休みにした。
休んで酒でも飲まないとやってられない気分だ。
「はぁ……なんで咎落ちを捕まえたのに疑われたままなんだよ。話が違うだろ」
「それだけタクロウが不審者のオーラを隠せていないからじゃないですか?」
「不審者のオーラってなんだ! こっちは真面目に働いてるのに……」
大体、なんだよあの人数!
二十四人に対して三人で捕獲に向かうとか頭おかしいだろ!
あのジーナとかいう騎士……人数差があるってわかって向かわせたんじゃないだろうな?
だとしたら意地悪すぎる。
もし知らなかったなら無能すぎるだろ。
「俺だけならともかく、カナタも危険な目にあったのに」
「まったくですよ! 私も疲れました!」
「……まぁ今回はお前も頑張ってた……ん? さっきからいじってるそれは何だ?」
「え? これですか?」
サラスはテーブルの上で円盤状の何かを転がして遊んでいた。
ゴールドよりも少し大きくて、石か鉄でできている。
ゴールド以外の硬貨だろうか。
「ちょっと見せてくれ」
「いいですよ」
気になった俺は彼女から円盤を受け取る。
硬貨というより、模様の入ったボタン……石板?
描かれている模様は……。
「人間の……男?」
円盤の中心に人が描かれている。
ただの人ではなく、裸に局部だけを隠した原始的な格好の男性。
手に持っているのはリンゴのような果実だ。
――アダムストという名前に聞き覚えはないか?
「そういえばジーナがそんなこと……おいポンコツ」
「なんですか?」
ポンコツで返事しやがったぞこいつ。
自覚あるのか?
それとも反射か?
慣れって恐ろしいな。
「これどこで拾ったんだ?」
「咎落ちの人が持ってました」
「……お前、盗賊の持ち物パクったのかよ」
「盗んだんじゃありません! 落ちてたから拾ってあげたんです! 善意です善意!」
「へぇ……」
善意ねぇ……絶対嘘だろ。
「ちなみにこれ、どうするつもりだったんだ?」
「え? それは……お金になりそうなら売っちゃえばいいかなと……」
「善意の言葉を辞書で調べてから使え」
「い、いいじゃないですか! どうせ咎落ちの持ち物ですよ!」
サラスは開き直った。
だからといって盗んで許されるわけじゃないんだよ。
相手が罪びとだとしてもな。
しかし描かれているアダムストのマーク、ジーナの質問が気にかかる。
奴らはただの咎落ちじゃなかったのか?
「なぁカナタは知ってるか? このマークのこと」
「え? 何? 聞いてなかった」
カナタに話を振ると、びくっと大げさに反応した。
また俺のことをじっと見ていたようだ。
大好きな食事もあまり食べていないように見える。
「本当に大丈夫なのか? 昨日からずっとぼーっとしてるし」
「へ、平気だって! ちょっと疲れてるだけでさ」
「そうか? 熱でもあるんじゃないか?」
いつもと様子が違う彼女を見て心配になった俺は、右手を伸ばして彼女の額に触れる。
熱があるのに無理をしていたら大変だ。
彼女への心配が、周囲からどう見られるかという意識を忘れさせた。
「――!」
「ちょっと熱い……? やっぱり熱があるんじゃ」
「だ、だだ、大丈夫だから!」
カナタは慌てて立ち上がり、俺の手を払いのける。
思った以上に拒絶されて、思わず俺も身構えてしまう。
「ほ、本当に平気だから! だ、だから……ご、ごめん!」
「え? ちょっ――!」
そのままカナタは一人で走りだし、冒険者ギルドの外に出て行ってしまった。
取り残された俺を、多くの人が見ている。
もちろん、疑いの目で。
「見た? 女の子に逃げられてたわよ」
「しかも涙目だったわね。顔も真っ赤で……辱められたんだわ」
「最低ね……」
「いや、違う!」
俺は何もしてない……はずだ!
「タクロウ……カナタに何かしたんですか? セクハラとか」
「し、してねーよ!」
騒いでいると、どこからかジーナまでやってきて、俺に疑いの目を向ける。
「ヒビヤタクロウ……貴様やはり……」
「だから違うって!」
俺は何もしていない。
確かにカナタの態度はいつもと違うけど、まったく身に覚えがない。
おかしくなったのは昨日の夜……というより、あの戦いが起こった後からだ。
戦いに夢中で、何か失礼なことでもしちゃったか?
だったら言ってくれよ!
周囲からはヒソヒソ声で、変態だの女泣かせだと散々言われている。
せっかく咎落ちを捕らえて少しだけ周囲の視線が柔らかくなったのに、これじゃ逆戻りだ。
「タクロウさん」
「さん? は? なんだよ」
「私からありがたいアドバイスをしてあげます」
「アドバイス?」
サラスはこほんと一回咳ばらいをして、改まる。
普段はポンコツだが、女性関係については彼女のアドバイスは有用だ。
一先ず耳を傾ける。
「いいですか? こういう時、男が取る手段は一つしかありません」
「一つ……だけ?」
「はい」
「なんだ? 俺はどうすればいい?」
「それはですね――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます