幼馴染と再会したら、男の娘になっていた件

葉っぱふみフミ

第1話 ボッチな僕と清楚可憐な彼女

 2コマ目の代数入門の講義を終えると、田島直人は一人学食へと向かうことにした。

 2コマ目と3コマ目の間の昼休み、他の学生は友達と楽しそうにしている。


 そんな楽しそうな雰囲気の中、一人スマホを見ながら学食の券売機の行列に並ぶ。

 券売機で300円のカレーの食券を買い、食券と引き換えにカレーを受け取り席に座る。

 カバンの中から家から持ってきたおにぎりとコロッケを取り出し、カレーの上にのせる。学食でもコロッケカレーはあるが、それだと400円になってしまう。

 スーパーの総菜なら3個で100円。それに、おにぎりでご飯の量を増やして腹をみたす。

 奨学金をもらっているとはいえ、


 カレーを口に運びながら周りの楽しそうな学生たちを見て、思い描いていたキャンパスライフと現実の落差に、こんなはずではなかったのに落ち込んでしまう。


 直人の実家は九州の地方都市にある。隣の家まで100mとか、人より家畜の数の方が多いというほどの田舎ではないが、遊ぶところといえばショッピングモール一択、流行りの映画を観ようと思うと最寄りの映画館まではバスと電車で1時間はかかってしまう。

 

 そんな生活に辟易して、華やかな東京にでることを夢見た。

 工場勤務の父親とスーパーのレジ打ちのパートの母親、生活は裕福な方ではないが、誰もが知る有名大学なら許してもらえるだろうと、高校時代は勉強に励んだ。


 おかげで私学の雄といわれる難関の私大に合格することができ、家族や学校の先生からも祝福された。奨学金ももらえることになり、なんとか夢見た東京へと行く目途は立った。

 しかし、嬉しかったのもそこまでだった。


 大学に入ってみると、入学早々に付属高校の内部進学者や有名進学校出身者を中心にコミュニティはすでに形成されており、田舎出身かつコミ障な僕が入り込む隙間はなかった。

 入学して3週間近くになるが、いまだに友達らしき人はできない。

 このまま、友達もできずに大学卒業しちゃうのかな、そんな不安が襲ってくる。


「ちょっと、いいかな?」


 カレーを食べ終わったところで声を掛けられた。


「あっ、すみません。すぐにどきますね」


 声をかけてきたのは、黒い長い髪が印象的な女性だった。ふんわりとした白のトップスに黒のキャミソールワンピース、シンプルだがそれゆえに着ている人の魅力を引き出している。

 清楚可憐、まさにその言葉がぴったりとあてはまる美しくかわいい子だった。さすが、東京。住んでいた田舎とは違い、みんなあか抜けている。


「あっ、いや違うの。確か同じ理工学部だよね。1コマ目の情報処理、遅刻しちゃって最初の30分ぐらいノートが取れてないの、コピーさせてくれない?」


 顔の前で両手を合わせてお願いされた。


「い、い、いいですよ」


 久しぶりに会話したことに加え、その相手が美人であることで緊張してしまい、言い淀んで、声も上ずってしまった。

 そんな僕をみて、美女はクスクスと笑っている。


「そういえば、自己紹介まだだったね。相澤蓮といいます。同じ理工学部なんだから、仲良くしようね」

「はい。僕、田島直人と言います」

「1年同士だから、敬語はやめて」


 学食の横の売店に向かいながら、自己紹介を済ませた。笑顔で語り変えてくる彼女に早くも恋心が芽生えてくるが、こんなきれいな人と自分とは釣り合わないのは自分でもわかっている。

 それでも、期待してしまう自分がいた。


「ノート、きれいにとってるんだね。ありがとう」


 微笑みながらコピーし終えたノートを手渡してくれた。その笑顔に浮かれながらも、「相澤蓮」という名前が心に引っかかった。


「あっ、そうだ。ノートのお礼にアイスでも食べない?」

「あっ、うん」


 売店前のベンチに腰掛け、彼女に買ってもらったアイスを二人並んで食べる。こんな時、どんな会話をしたらよいかわからないまま、じっと彼女の横顔をみつめた。


「どうしたの?」

「あっ、いや、『相澤蓮』って子供のころ同じ名前の友達がいたなと思って」

「どんな子だったの?」

「男の子なんだけど、相澤さんとは似ても似つかない感じで、いたずら好きの悪ガキだったよ。僕の教科書に落書きしたりとか、上靴隠したりとか。でも、仲良くていつも一緒に遊んでいたけど、小学校5年生だったかな急に転校していなくなっちゃった」

「私も『田島直人』っていう、友達いたよ。いつも教室で本ばかり読んでいる子。女の子が苦手で、女の子と話すと緊張してどもっちゃうのが面白かった」


 相澤さんはクスクス笑いながら話している。本ばかり読んでいて女の子が苦手、それはまるで僕のことだった。


「あ~、もう限界。直人、まだ気づかないの?」


 相澤さんがお腹を抱えて笑っている。その仕草、見覚えがあった。いたずらに成功した蓮が、いつもそうやって笑っていたのを思い出した。


「ひょっとして、蓮?」

「ようやく気付いた。そうだよ、相澤蓮。小学校5年生以来だから、8年ぶりかな。全然変わってなくて、入学した時からすぐに気づいたよ」


 もう一度、蓮の姿を見てみる。細身の体にキャミソールワンピース。透け通るような白い肌。艶のいい黒髪。どこからどう見ても女の子だ。

 でもその一方、顔の輪郭や鼻の形は記憶にある蓮、そのものだった。

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