【#3】「つながり」が生み出す思考変容―EPISODE 2053 SEASON1-005「星屑のアーチ」から



■連鎖する「つながり」

 #2では『EPISODE 2053 Roots.』の背景にある「競争社会」の功罪を整理し、消耗や疲弊を乗り越えるための戦略として、利得から切り離された「つながり」の重要性を述べた。


「Roots.」はメンバー入りを賭けた候補生どうしの熾烈な競争、エンタメ業界でより多くの収益を得るための「商品」としての競争――の2種類の競争にさらされている。このミクロ、マクロレベルの競争は候補生のスキルアップに寄与する一方、精神的な疲弊や対人関係の悪化といった負の効果ももたらした。


 競争によって消耗した心身を癒し、活力を高めるうえで重要なのが利害や損得から切り離された「つながり」である。月代ユウにとってのタン・シヨン、フラナ・リン。奈々星アイにとっての一ノ瀬マイ、朝凪シオネ。春日部ハルにとってのナナスタがそうであるように、利害や損得勘定に左右されない関係性を持つことで、熾烈な競争社会を颯爽とサバイブできる――『EPISODE 2053 Roots.』は競争を生き抜く「つながり」の価値を描いていたとも読み取れるのだ。


 EPISODE 2053 SEASON1-005『星屑のアーチ』は、先のテーマを「Asterline」(アステルライン)視点に置き換えて変奏したエピソードだ。


 草野球チームの監督から、地域振興を目的としたイベントの出演依頼を受けた支配人。「Tokyo-twinkleフェス」に向けた布石を打つべく、意気込んでAsterlineを派遣するも、そこは過疎化の著しい田舎町だった。ビジネスライクな性格から収益が見込めないと落胆するも、町にゆかりのある住民たちの後押しを得て、イベントは見事に盛況を収める。


 本エピソードで注目すべきは地域住民によるサポートの数々である。食材を無償提供する住民、機材を搬入するために超特急で現地入りした設営スタッフ、ステージ設営に協力する消防団……。いずれも報酬云々ではなく、イベントを盛り上げたい一心でとった行動だ。まさに「星と星をつないで星座を描く」というAsterlineの謳い文句を体現するかのように、人と人とのつながりが連鎖し、彼女らのステージは成功を収めたのだった。


 舞台設定も絶妙だ。『EPISODE 2053 Roots.』が弱肉強食の論理と熾烈な競争が渦巻く都会的な物語であるのに対し、『星屑のアーチ』は牧歌的で穏やかなムードが終始漂っている。自給自足や相互扶助といった田舎的な描写は、彼女らがいかに競争から切り離された環境にいるかを強調させる(とはいえ、人口減による過疎化の進行、廃校を余儀なくされる学校など、要所要所を細かく見れば競争とは全くの無関係ではないことが分かる)。


 この都会と地方の対比構造は、そのままRoots.とAsterlineのユニットとしての特徴に表れてきそうだ。


■支配人の価値観にも変化が……?

 もう一つ注目すべきは支配人の価値観の変容だ。『星屑のアーチ』を通してみると、支配人がいかに弱肉強食の競争社会で闘ってきたかが垣間見える。その様子が色濃く表れているのは第3話。昼食を準備するシーンで支配人はこう言い放つ。


〈断っても次々人がやってきて食材を置いていくんです。人がいいですね。僕には理解できません。(『星屑のアーチ』第3話)〉


 地域の人々をどこか下に見たような発言も、これまでの支配人の経歴を拾い上げれば合点がいく。初登場は『PROLOGUE~アイ・ユウ~』の第2話。当初は資金繰りの悪化による経営難にあえぐ「ナナスタW」の清算処理のために送り出されたが、派遣元の資本家にはしごを外され、支配人としてナナスタWの再建を託されることに。どうやら彼にはライバルが多いらしく、なかには彼の活躍を快く思っていない連中もいるようだ。債権回収の世界もエンタメビジネス同様激しい競争にさらされており、支配人はそこで勝ち上がってきたのだろう。


 それが垣間見えるのは『PROLOGUE~アイ・ユウ~』第2話での電話のやり取りだ。この場面からも支配人はハコスタの債権回収では敏腕で、ナナスタWの後始末に成功すれば出世が約束されていたことが察せられる。カネと欲望が渦巻く仕事でもプライドを持って臨み、成果を出し続けてきた彼にとって、無償の、しかも無欲の奉仕は理解しがたい行為なのは言うまでもない。


 それだけに、この町が地元だという設営スタッフが急ぎで機材を搬入してくれたこと。地元の消防団が舞台の設営を手伝ったこと。そして何よりAsterlineのライブに多くの人が集まったこと……。無償のつながりが連鎖するさまは衝撃的だったに違いない。この光景を目の当たりにしたことで、アイたちと出会ったことに比べて、心なしか態度が軟化したようにも感じられる。


〈信じられない。今時、人の繋がりだけでこんなに人が集まるなんて……

……相応のものを見せないといけませんよ。これだけの観客を相手にするなら(『星屑のアーチ』第4話)〉


 利害もない。損得勘定でもない。無償のつながりは弱肉強食の社会でのし上がってきた支配人の価値観でさえ、変化を与えつつある。このように、『星屑のアーチ』は「つながり」の価値を敷衍し、発展させたエピソードでもあるのだ。

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