【#5】遠藤嘉基・渡辺実『着眼と考え方 現代文解釈の方法』(筑摩書房)

■半世紀前の現代文教本がなぜベストセラーになったのか

 2年前に復刊した『着眼と考え方 現代文解釈の基礎』(筑摩書房)は発売から1週間弱で二刷を記録するなど空前の売れ行きとなった。1963年発売にもかかわらず令和の時代にベストセラーとなっているのは、多くの現代人が「優れた"読み"、"書き"のスキルを身につけたい」という欲求を抱いているからだろう。

 

 実社会に出てみると高度な言語処理能力が求められる場面に往々にして遭遇する。例えば、商談。製品・サービスを導入してもらうには、一にも二にも顧客のニーズを繊細にくみ取らなければならない。


 特に今は「売り切り」ではなく、製品・サービスを使うことで顧客の目標達成や成功を後押しする「カスタマーサクセス」の重要度が高い。顧客の課題や要望はもちろん、受注後の理想像をイメージするには「読む」鍛錬を積む必要がある。


「書く」ことも同様だ。顧客への提案書や社内向けの報告書など、自分の主張を論理的かつ明快に表現するには、「書く」鍛錬が必要である。特に今の時代はインターネットやSNSの発達によって、誰もが書き手となって情報発信できるようになった。

 

 周囲が書き手にあふれる中で異彩を放つには、より一歩踏み込んだライティングのスキルが求められる。


 一段高い言語処理能力を体得するにうってつけなのが他でもない、「現代文を学ぶ」ことだ。


■文章を読み解くための3ステップ

 さて、本書は『現代文解釈の基礎』の応用編的一冊である。古典文学や批評等の名著を例題に、文章の内容理解、表現的意味をきちんと把握するための方法論を網羅している。


 出題の文章が意図するところを抜け漏れなく読むには、どんな点に注意すべきか。論説であれば、筆者がどんな思想のもとで主張を述べているか理解する。文学であれば、作中人物の言動や行動から、その人物の価値観や心情を理解する。これらの作業を滞りなく進めるは、主に以下の3ステップで文章を読む必要があると著者は言う。


①全文を段落に分け、大意を追い、題目を求め、文章解析を試みなどして、全体的な構成をキャッチする。

②本文に書かれていない一般常識などを動員し、それとの一致や、食い違いを検討することによって、論説では理論の展開の原動力となっている筆者の思想を、小説ではプロット(筋)進行の推進力となっている人間関係・登場人物の性格や心理などを、それぞれ正しく把握する。

③問題となっているところを中心に特に詳しく前後を検討し、言葉の表面的な意味だけでなく、背後に隠れた意味をつかみ出す。


 ①はいわゆる要約である。段落ごとの主張やテーマを明らかにし、文章の流れをつかむ。


 ②③は解釈の話である。①の作業をもとに、一般常識や読者自身の価値観と対応させながら、文章の勘どころを探る。そして設問に回答する。


 もちろん①~③を着実に進めるための方法――要約や解釈の方法論も多く存在する。これらを一つ一つ丹念に理解することで、自ずと言語処理能力がブラッシュアップされていく。高度な「読み書き」のスキルは一朝一夕に育まれるものではないのだ。


 本書は『現代文解釈の基礎』と同様に、昭和30年代に出版された。主なターゲットは大学受験を控えた受験生だが、本書で紹介された方法論は現代を生きるビジネスパーソンにも有利に働くはずだ。

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